第4話 監査官の実力と影の組織
「——試させてもらうぞ。“経験値錬金”の力をな」
ユリウスの瞳が鋭く光る。
俺は剣を構えたまま、じりじりと後退した。
(やべえ……こいつ、只者じゃない)
ただ立っているだけなのに、全身を鋭い刃で包まれているような威圧感。
それに加えて——
(……“気配”が読めねえ)
まるで影そのもの。
通常なら察知できるはずの”殺気”すら、意図的に消されている。
俺が気を張っていると、ユリウスが静かに口を開いた。
「……お前は”規格外”だ。ギルドに所属していたというのが、信じられん」
「追放されたんでな」
「……ああ、そうだったな」
ユリウスは無表情のまま、静かに剣を構えた。
「それでは——」
「見極めさせてもらう」
次の瞬間——
ユリウスの姿が、消えた。
「——ッ!」
俺は咄嗟に 《影足》 を発動。
影を蹴るように跳び、数メートル先へ瞬間移動する。
——キィンッ!!
直後、俺が立っていた場所を、ユリウスの剣が両断していた。
(……今の、見えなかった!?)
普通、相手が動けばわずかでも気配が生まれる。
だが、ユリウスの動きは”影”のように無音。
……いや、違う。
(まさか……「影に溶け込んで移動している」 のか!?)
そう考えた瞬間、ゾクリとした。
(影に潜むスキル……俺の《影足》と似ている?)
ユリウスは俺を一瞥し、微かに口角を上げた。
「……反応は上々。だが——」
バシュッ!
ユリウスが再び消えた——!
今度は視界の端に映る。
背後だ!
「——ちっ!!」
俺は《影足》で再び距離を取ろうとする。
しかし——
「無駄だ」
ユリウスの影が伸びる。
そして——俺の影と”重なった”。
「——!?」
——ドシュッ!!
突然、視界が反転した。
強烈な衝撃が全身を襲い、俺は地面に叩きつけられた。
(……!? 何が起きた!?)
俺の体が……動かない?
ユリウスが無表情のまま、俺の影を踏んでいる。
「《影縛》——“影を支配する者”にしか使えないスキルだ」
ユリウスが剣をゆっくりと振り上げる。
「——さて、“実験”を続けようか」
「お前の”経験値錬金”……どこまで俺を楽しませてくれる?」
同じ頃、ギルド本部の地下——。
暗い部屋の中で、ギルマスと数名の幹部が密談をしていた。
「……監査官が動いたようですね」
「フン、余計なことを……」
ギルマスは眉間に皺を寄せ、苛立たしげに報告書を叩きつけた。
「レオン・グリードの”処分”は、我々の手で行うはずだった」
「しかし……ギルドの上層部が、それを許さなかった」
「奴らが”影の組織”の存在を恐れたから、か?」
「……おそらく」
ギルマスは苛立ちを隠せなかった。
(チッ……“影の組織”の連中め)
本来なら、ギルドは世界の秩序を守る存在。
だが、実際にはその裏に”もっと巨大な支配者”がいる。
そして、監査官ユリウスは——
その”支配者たち”の代理人に過ぎない。
「……まあいい」
ギルマスは薄く笑った。
「ユリウスがレオンを仕留めようとするなら……こちらも利用させてもらうまでだ」
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