第1話 レベル1の雑用係、追放される
——人類は魔物を倒し、経験値を得て、レベルを上げる。
それがこの世界のルールだった。
だが、俺は違った。
何年経っても、どれだけ魔物を狩っても……俺のレベルは1のままだった。
「レオン・グリード。お前は今日限りでギルドを追放する」
ギルドマスター・バルログの低い声が、広い訓練場に響いた。
ギルドの幹部たちが腕を組み、俺を見下ろしている。
「は……?」
「言っておくが、これは正式な決定だ」
バルログは机の上に一枚の書類を放り出した。
『【冒険者レオン・グリード】
職業:なし
レベル:1(固定)
スキル:なし』
——「レベル1(固定)」
この一文が、すべてを物語っていた。
「5年間、雑用係として働かせてやったが、お前は一度もレベルが上がらなかった。つまり……成長の可能性がゼロってことだ」
「……でも、俺は他の奴らの遠征サポートや、依頼の下準備をずっと——」
「それがどうした?」バルログが鼻で笑う。
「ギルドは戦える者のためにある。戦えない者に、ここにいる資格はない」
「お前は"無能"だ。わかるか?」
無能——。
わかっていた。
レベルが上がらない俺は、雑用ばかり押し付けられ、戦闘には一度も参加させてもらえなかった。
「……わかったよ」
俺はギルドの紋章が刻まれたバッジを外し、机に置いた。
「ここを出れば、もうギルドの支援も受けられない。まともな仕事もないだろう」
バルログは冷たい目で俺を見下ろした。
「せいぜい、野垂れ死にしないようにな」
夕暮れの街に出ると、吹きつける風が冷たかった。
長年いたギルドを追い出された俺は、たった一つの小さなカバンを背負い、途方に暮れていた。
「……ははっ、マジで無一文じゃん」
街の広場では、冒険者たちが笑い合いながら酒を飲んでいる。
その中には、俺と同期だった連中の姿もあった。
「おい、聞いたか? レオンがギルドを追放されたらしいぜ」
「そりゃそうだろ。レベル1のままなんて、ありえねえし」
「雑用だけやって、戦いすらしなかったんだろ? 当然だわ」
「くそ……!」
拳を握りしめる。
くやしい。
でも、今の俺には何もできない。
何も——。
「……いや、本当に何もないのか?」
ふと、あることを思い出す。
昔、ギルドの倉庫で見つけた、一冊の古い書物。
そこには、あるスキルのことが書かれていた。
——【経験値錬金】
経験値を、別のものに変換するスキル。
「……そういえば、俺のステータスには"スキルなし"って書いてなかったよな?」
俺はギルドの支給していた装備を脱ぎ、手をかざした。
すると——
〈スキル発動条件を満たしました〉
〈ユニークスキル【経験値錬金】を獲得しました〉
「……は?」
目の前に、青白いウィンドウが浮かび上がっていた。
——俺、スキル持ってたのか!?
俺は試しに、目の前に落ちていたボロ剣を拾った。
「このスキル、どうやって使うんだ?」
考えた瞬間——スキルの使い方が頭に流れ込んできた。
【経験値錬金】——それは、経験値をあらゆるものに変換するスキル。
レベルが上がらない代わりに、経験値を好きなものに使える。
「つまり……」
試しに、俺の持っている微々たる経験値を 「この剣の強化」に使用する。
〈経験値100ポイントを使用し、武器を強化しますか?〉
「……はい」
すると——
ボロ剣が、一瞬で漆黒の剣へと変貌した。
「えっ?」
〈武器進化:ボロ剣 → "闇狼の魔剣"〉
「……まじかよ?」
俺の手には、かつて見たこともないほどの美しい剣が握られていた。
試しに振ると、風を切る鋭い音が鳴る。
「すげえ……!」
レベルが上がらなくても、経験値を使えば"無限に強くなれる"?
「これ……すげえスキルなんじゃね?」
ギルドを追放された雑用係の俺は、世界を揺るがすスキルを手に入れた——!
読んでいただきありがとうごさいます!
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