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99



 「世界の秘密を見せてあげる」



 そう言われ、僕は彼女の背中をついて歩いた。


 “世界の最後の日から来た”と、彼女は言った。


 今から数千年も前の話だ。


 僕は、彼女の話を真には受けなかった。



 「未来は変えることはできない。だけど、今日を変えることはできる。一種のパラドックスだよね?」



 意味がわからなかった。


 彼女の言葉も、行動も。


 世界はもう、「形」を持たない。


 明日に続く道も、昨日の出来事も、——全部。


 たった一つ確かなのは、“今日だけが存在している”ということ。


 昨日でも、明日でもなく、「今」という時間だけが、世界に残っている。



 決して明けない夜はない。


 人々はそう思っていた。


 ただ、誰もが知っていた。


 人に寿命があるように、星にもまた、寿命がある。


 いつか大地が枯れ、海の水が衰退していくこと。


 命には限りがあるということ。


 「永遠」など、どこにも存在しないということ。



 それでも人々は、自由の暮らしを選んだ。


 例え滅びる運命にあるとしても、自分の足で立って、歩いていきたい。


 「夢」を追いかけていたい。


 雨の神である“ミコト”は、人を愛した神の1人だった。


 かつては可能性や希望といった曖昧なものを信じる人間を「星に有要な存在ではない」と考えていたが、自らの運命から目を背けることなく立ち向かっていくその姿に惹かれるようになり、いつしか「人を愛する神」と慈しまれるようになった。


 世界の最後の日に、人の隣に寄り添っていたのも彼女だ。


 荒廃した大地と、かつて栄華を極めていた街の瓦礫の上に座りながら、“最後の人類“となったある少女と、約束をする。



 「例えみんないなくなっても、覚えておいてほしい」


 「例え明日が来なくても、私は空を見ていたい」



 ミコトは、滅びゆく人間の運命を変えようと、世界に「雨」を降らせた。


 その雨は瞬く間に地上を覆い、世界には新たな「海」ができた。


 自らの全ての力を使い果たし、人のために涙を流したのだった。


 そして——



 力を使い果たし、深い眠りについたミコトは、夢を見る。


 その夢は水に溶け出し、荒廃した大地に広がった。


 大地には木々が芽生え、星を汚染していた“穢れ”が消えていった。


 彼女が生み出したのは、限りなく人間に近い生命体だった。



 『99(ツイン・レイ)』



 海の水から生まれ、新たに地上へと向かった彼らは、明日の世界へと希望を馳せる。


 自らの存在が、今日という時間の淵に、たった1つの足跡を残せないとしても。


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