#5出発からの到着
『忘れるなよ。お前の命は私の一声ですり潰すことができるのだ。少しでも不審な動きをしてみよ。女神の加護を受けた者たちを死なせてみよ。その翌日にはお前の死体が王国の広場に吊るされていることだろう』
王は私にこの世界のことを教えてもらった。丁寧に話すのはめんどくさいので掻い摘んで言うと、最近この世界では魔王が復活して魔族がより活発且つ凶暴になったこと、女神がそれを見かねてごく少数の人間・亜人に加護を与えたこと、この国の王子がそのうちの一人であること、そいつを守りながら残りの加護持ちの者を探して魔王を討たなければいけないこと
ついでに、黒髪は魔族の象徴なので絶対に人目につかないようにすること、加護さえあればどんな言語でも使用可能であること、などなど、、、、
正直色々一気に言われすぎてよく分かっていないが、超王道展開のストーリーに巻き込まれていそうなことはわかった。不覚だが、結構かなりワクワクしていた。
そんな私に対して王がこそっと囁いたのが上記である。物騒にも程がある、と唖然としていた所で、王子と一緒に城から追い出されたのは数時間前の話だ。
そして今、私は王子とともにどこかへ向かっている。行き先は知らない。知る前にポーションの効果が切れてしまった。まあ、私が言葉を理解していても教えてくれたとは思えない。名も知らぬ王子は私の存在をないものとして扱いたいらしく会ってから一回も話していないし、目も合わない。
せっかく金髪慧眼、正統派の美形、The王子みたいな王子をリアルで見ているというのに、非常に損した気分になる。言葉が通じてもうまく話せない気がするから話したいわけではないんだけど、一回正面から美形を摂取してみたい。
黒髪が魔族っぽくて悪いんだろうか?だとしたら私の母国は魔王大国になってしまうんだが……
そんなことを考えていると、不意に王子の足が止まった。
「どうかしました?」
「……$#+○€」
王子は硬い表情で腰の剣を抜き、構えた。何か来るのかもしれない、そう思って私もコントローラーと分身を出しておく。
暫く無言で立ち尽くしても、一向に何もこない。私が首を傾げはじめたとき、王子は突然
腹を抱えて笑いだした。
それはそれは楽しそうに笑い転げる姿に私は察してしまった。
「だましたな?このクソ王子め…」
「♪☆♪☆♪☆!!!♪♪☆☆×$#<$0+○♪!」
王子は私をからかう様に爆笑を続ける。
もう決めた、こいつを敬ったりするものか!!なんだったって女神様とやらはこんなのに加護を与えたんだ?こんな、性根のネジ曲がったクソ野郎に!確かに、魔族が出るには王都に近すぎるなと思ったけど…これは誰でも勘違いするわ!
やっと笑いが一段落着いたらしい王子は上機嫌な様子で歩き出した。
一一一一一一一一一一一一一一
更に数時間歩くと、町が見えてきた。
赤い屋根がずらっと並んていて、町の中央には教会のような大きな白い建物が建っている。決して豪華でも煌びやかでもないが、上品な雰囲気の町だった。僧侶か聖女的なポジションの人を迎えに来たんだろうか?
私の髪が見えない様にマントのフードを深く被り直して王子に着いて行くと町の入口に門番が2人程立っていた。王子と門番はこちらをチラチラ見ながら何か話している。まぁ、セーラー服にマントって勇者の仲間っぽくない…というか、厳密には仲間じゃないのか。私には女神の加護とやらはないので言語チートは得られなかった。確かに、RPGをプレイしていて言語の壁にぶち当たったことはないが、そういうことだったのかと納得である。
町の中への立ち入りが許されてしばらく歩いていると駆けてくる明るい茶髪の少年とぶつかった。
「わ」
「$%#&#”!!!!」
少年は急いでいるようですぐに去って行った。王子はぶつかられた私を気にも留めないでずんずん進んでいく。余程嫌われているらしいとため息をつくと、ふと写真が落ちていることに気付いた。
「さっきの子のかな?」
写真には先程の少年と水色の髪の青年(多分私より少し年上の)が並んで穏やかに笑って写っていた。