09.魔界と魔王
魔界、通常の世界とは空間的に隔離された異世界。
三回目の天災の元凶との闘いの場でもある。
生命の季節を終わらせた一度目の天災は、一人の天使の離反による大異変。
神聖歴を終わらせた二度目の天災は、一人の魔法使いによる風化の魔素の異常活性化。
そして幻精歴を終わらせた三度目の天災は、邪神による魔物の魔素の異常発生。
邪神はある一人の少女に自らの欠片を植え付け、少女の意識を食いつぶし、その影響を以って世界を魔物の魔素で満たそうとした。
だが、その少女は心優しく、自らよりも他者の安寧こそが尊いと信じる者であった。
少女は意識が消え去る前に邪神の欠片から得た力を以って自らをこの世界に幽閉、影響を最小限に抑えた。
そしてアーク種が率いる作戦によって完全に封印され、邪神の影響は現世に現れなくなった。
そう、少女が封印されただけで、何も解決はしていない。
というか、邪神は神だ、アーク種とはいえど神ではない者たちでどうこうできる存在ではないのだ。
さて、なぜ私はここに呼ばれた?
「なん」
「その子が?」
それをエリサに聞こうとしたら、後ろから声をかけられた。
振り返ると…エリサと似た顔のエルフ…つまり。
「アークエルフ…!」
アーク種はそれぞれの種族で姉妹兄弟として作成されているため、外見が似ているのだ。
そして現存してるアークエルフは二人…つまり、この人は『天眼』!
「ん、【魔力支配】の持ち主」
「えー…は、初めまして」
「初めまして、することは聞いていますか?」
聞いては…いない、だが予想は立てられる。
「魔王と邪神の力の分離、可能であれば魔王救出、邪神の力の始末…ですか?」
「ん…正解」
ああ、やはりか…
「言っていませんでしたね?」
流石姉妹、お見通しか。
「ん、予想付いてるだろうと思った」
んまあ付いたけどさあ…
「はあ…まず、謝罪を」
「え?」
謝罪?
謝れるようなことなんて…
「これは本来我らアーク種をはじめ、幻精歴を生きた者たちの責任、本来あなたには関わりのないことです…選択してください、我らに協力するか、無関係を貫くか」
「…っは~…」
前世からの癖で顔に手をやり上を見上げる。
そして指の隙間から鎖が伸びている黒い太陽…封印された少女、魔王を見る。
「…分かってたろ」
「ん」
だろうなぁ…
「分かりました、協力します」
「いいのですか?」
「ええ…エリサから魔王のことについては聞いています」
自らよりも、他人を重んじ、自らを幽閉した…
「あの子は、報われなければなりません」
悪人が痛い目を見て、不幸になり、惨たらしく、惨めに死ぬのは構わない。
体調管理を怠った者が苦しみ、病気で死ぬのだって構わない。
ただ…努力し、他人を尊び、生きてきたものが、理不尽に、不条理に…死ぬのだけは許されない。
「だから、協力します」
これは私の考え、理念だ。
この考えこそが正しいだなんて傲慢なことは考えちゃいない。
ただ…私は私の考えに従って動き、行動する。
「…この子本当に2歳児ですか?」
「ん」
おっと、考えが子供らしからなかったか?
それとも…まあいいや。
「…まあいいでしょう、協力感謝します…さて、あなたはどう見ますか?」
「…んー」
話し合い、計画を立て、準備していく。