10.伝承魔法・一時定義、邪神の力
準備完了、そして…
「では、お願いします」
「はい」
封印された魔王へ干渉と一部の解析、支配開始。
そして少女と邪神の力を分離、黒い太陽から噂に伝え聞き、エリサから聞いた外見の少女が出てくる。
「分離完了」
「ん」
その少女をエリサが空間魔法か何かで救出。
さあ、ここからは…邪神の力の始末だ。
使うのは無属性魔法、その中でもその地に根付いた魔力に焼き付いた伝承や噂を再現する…伝承魔法と呼ばれる代物。
ただ、この世界に神殺しの伝承は存在しない、これは神が実在し、その誰もが死んでいないためだ。
では、伝承魔法でどうやって邪神の力を始末するのか?
簡単だ、この世界にないのなら、他の世界から持ってくればいい。
準備したのはコツコツ集めていた魔石に封入した魂たち、総数3万3412個。
その全ての魂の波長を私の魂と同じになるように調律、半分の1万6706個の魂を封入した魔石を分解し魂を開放、その場に留める。
二人のアークエルフの魔力を借り発動するは、魂を犠牲に一時的に伝承を根付かせるオリジナル魔法。
「《伝承魔法・一時定義:
「封印、破られます」
再現するは…
ミストルティン》!」
北欧神話に登場する、神殺しのヤドリギである。
顕現したヤドリギは矢となって邪神の力にまっすぐ飛んでいき…風穴を穿つ。
「さあ…」
どうだ?
風穴があいた邪神の力は、外側から塵となって霧散…いや、消滅していく。
そして…
そして…
「…え、あ、終わり?」
「…反応は消滅しました」
感知とか索敵がアークエルフで一番得意な『天眼』がそういうならそうなのだろう。
てっきり本体からの反撃か何かあると思ったんだが…だから調律した魂入りの魔石をもう半分、1万6706個残したわけだし。
「! 魔界、崩壊します」
「!」
て、そうだった!
魔王というこの世界を作る力の源を失った以上、この世界…魔界は崩壊する。
柱を失った建物の様に、掘り過ぎた地下空間の様に。
アーチエルフのどちらかに連れられ脱出する。
「ほっ…あ! 魂回収し忘れた…」
まあ、命あっての物種か。
なのだが…アーチエルフ二人の表情は険しい。
「どうした?」
「…崩壊が止まった」
「え」
なぜに?
「どうやら、あなたが残した魂が理由の様です」
「え?」
あの魂たち?
となると…
「まさか、次の魔王に?」
「はい、1万6706の魂は同一のものであると世界に認識され、それら全てが一つの魔王へと変貌しました…ただ、あなたが放った魔法で魔物の魔素関係の権能は失われているようですが」
あー…そういえば、ミストルティンは光の神であるバルドルを殺し、結果世界から光が失われてたな…それの影響で世界に影響を及ぼす部分が消し飛んだか?
「あの子は…大丈夫そうですね、さて…どうしますか? おそらく戻ったら残った権能があなたに移りますが」
「戻ります」
1万6706個の魂回収したい。
あと単純に面白そう。
再度、黒い太陽を失い魔力光と魂入りの魔石以外は、暗闇に包まれた魔界に戻ると、『天眼』の見立て通り邪神の力が私に移って来る。
そして、それと魔石入りの魂に入った力を私に合うように調整したうえで、ゆっくりと、私が飲み込まれない程度の速度で取り込む。
それと並行して、事前に教えられた通りに世界の維持を行う。
そう、なんと私の【魔力支配】は神の力である邪神の力さえも支配出来るのだ。
もう【魔力支配】と呼んでいいのか分からないが…いい名前が思いつかないため当面はこのままで。
「…うっぷ」
全ての邪神の力の変質、および吸収完了。
別に腹に入ってるわけではないが、気分的に膨れた。
そして、世界の維持の処置も完了した。
「…はい、上出来です」
『天眼』からのお墨付きである。
で、変質させた邪神の力を取り込んだことによる変化は…まずオド量増加、魔力感知能力上昇、魔力支配能力上昇、その中でも魔物の魔素に対しては他の魔素以上の感知、支配能力を発揮する。
そして【魔力支配】の力も強まったな。
全体を通して、約…180倍、魔物の魔素の感知及び支配能力は360倍か。
新しくできるようになったことは…権能部分なら魔物を自由に創作して生み出せそうだな。
他は…今なら魔物の魔素を使って魂を直接生み出せそうだ。
《伝承魔法・一時定義》は…魂の消費ありの一回の使用で半分強消費、2回目はギリギリ使えない感じか。
あああいや、というか…
「…どう?」
「んー、まず魔力的能力と【魔力支配】の性能が180倍に、特に魔物の魔素関係は360倍に上昇、ただオドの大いなる魔素の比率に変化はなし。
権能で魔物の創作が可能に、
能力面は具体的に言うと、魔物の魔素を利用した魂の直接生成、《伝承魔法・一時定義》を魂の消費ありなら一回発動可能。
あと…魂を【魔力支配】で直接魔力へ還元して消費なしで膨大な魔力を得られると思う」
それはつまり、消費なしで魂を紐解くように魔力に変換できるのであり、極論私は第一種永久機関になれる、という訳だ。
魂を作成するのに使う魔物の魔素と、魂を魔力にした再発生する魔力の中に含まれる魔物の魔素、この二つは…圧倒的に、魂から得られる方が多いのだ。
うん、熱力学第一法則に反しているが、事実こうなるのだ。
そのため、外部からエネルギーを受け取ることなく、エネルギーを取り出すことが可能な第一種永久機関と化すのだ。
そして、これはこの魔力がある世界でもなお、異常なことだ。
なんせ、この世界にだって熱力学第一法則は存在するのだから。
そして、それは魔法にも言えることであり、魔力を消費して魔法や魔術を発動した際、総エネルギー量が増減したりしない。
いやまあそもそも魔力がどこで、どうやって発生してるのか分からないのだが…だから、この魂を使った第一種永久機関も魔力の出所を含めて見たら、熱力学第一法則に準じているのかもしれないが…観測できない以上はなぁ。
「…つまり、永久機関?」
「そーゆーことになるねー…まあ、観測領域上は、て但し書きはつくけど」
私別にここ…魔界をはじめとした空間的に断絶された世界とか、焚書事項の領域を魔法とか【魔力支配】で感知できるわけじゃないからな。
だから魂式第一種永久機関が、実はどっかからかエネルギーを引っ張て来てるただの循環機構なのか、本当に無から生えてきている第一種永久機関なのかは分からない。
まあ、流石に前者だと思うがな。
ただまあ今は便宜上、魂式第一種永久機関と呼称するが。
あ、あと魔力量増えたし彼岸桜改良しないと。
ずっと形状が維持されるような強化と活性化の魔素で構成されたサクランボを生やすようにして…まだちょっと余りそうだな。
朝起きたら遠隔から補充してるから、その翌朝にはマナを取り込む状態に移行してるぐらいに…あ。
そうだ、これを機に注連縄と鳥居を魔力で形作ろう、これならちょうどいいだろ。




