わたくしが原因なのは認めます
メアリー様の手を取って、にっこり笑う。けれどまだ戸惑いが強いのだろう。視線を彷徨わせている。
ここは一旦別方向から攻めてみようかしら。
「それでも気になるのでしたら、わたくしにだけ見せるのもアリではありません?」
「ヘンリエッタ様だけに……」
「ええ、見ての通りメアリー様のことを知ってもこうして、一緒にいるではありませんか。わたくしはこの程度で離れていきませんわ」
「ヘンリエッタ様ぁ……ありがとうございますぅ」
メアリー様を抱きしめる。ピンクのストレート髪をそっと撫でた。
きっと前世で、何かあったのでしょうね。本人が話さないのであれば、聞きませんわ。
だって今の彼女は、メアリー・キャンベルなのですから。
そして皆のところへ戻る。
「戻りましたわ。そろそろ再開いたしますか?」
「そうだね。メアリー嬢、出来そうかい?」
「はい! 先ほど参加できなかった分、頑張ります!」
殿下の言葉に、力強く返事をするメアリー様。元気になって良かった。
「途中からはヘンリエッタ様が原因ですので、仕方ありませんわ。この後ヘンリエッタ様が魅せてくれることでしょう」
パトリシア様が若干ジト目で、こちらに圧をかけてくる。
事実なので反抗はしない。
「そうですわね。魅せられるかは置いといて、最大限努力させていただきますわ。……なのでダニエル様、そんなに警戒しないでくださいまし」
「……無理です」
ダニエル様に完全に警戒されてしまった。そんなところも猫。
そんなダニエル様に、トミーが声をかけている。
「早く慣れた方が身のためですよ。姉上は予測不可能なことばかりするので、逃げようとしても無駄です」
「……弟として、なんとか止めてくれないだろうか」
「それができるのなら、そもそもとっくに僕のものにしてますから」
トミー、それわたくしに対して失礼でしてよ。でも前向きに考えるのなら、それでトミーに捕まらなくて済んでいるのか。
なんかごめん、トミー。
……そういえば、トミーの軟派な男設定はどこに行ったのだろう。もはや見る影もない。
根が真面目だから、難しそうね。どちらかというとシスコンでもう確立しているし。
練習が再開され、その後は何事もなく終わった。
◇◇◇
「それでは、今日はここまでにしよう。メアリー嬢、よく集中できていたね」
「あリがとうございます。殿下の教え方がすごくお上手で、分かりやすかったです。部屋でも復習します」
「いい心がけだ。けれど無理はしないように」
この時間で、殿下とメアリー様は大分壁が薄くなったようだ。
それより殿下の声かけが完全にできる上司のそれだ。何度もいうけれど、15歳でこれって……。将来は安泰ですな。
「それでは明日もよろしくお願いします。皆さんは馬車ですよね。私は寮なのでここで失礼します」
メアリー様、お1人で帰るつもりでしょうか。少し暗くなり始めていますし、よくありませんわ
「そろそろ暗くなっているし、送っていこう。学園は安全とはいえ、ご令嬢が1人で歩くのは良くない」
殿下、さすがですわ。紳士です。
「そんな……私は大丈夫です。お手を煩わせるわけには」
「メアリー様、こういう風に言うのも申し訳ありませんが、生徒も全員味方ではありませんわ。ここは素直に送られた方がよろしいと思います」
「ヘンリエッタ様……」
ついこの間まで、虐められていたメアリー様。わたくしが何を言いたいのか理解したようだ。
今は主にわたくしとパトリシア様が、壁となっているので明確なものは鳴りを潜めている。
けれど殿下が送っていくとなると、もう一つ問題がある。
「しかし、殿下が1人のご令嬢と2人きりとなれば、そちらも良くない噂が立ちますわね。ここはダニエル様にも付き添っていただいては?」
「無理です! それこそ変な噂になります」
パトリシア様の提案に、メアリー様はブンブンと首を振る。
確かに、それもあるか。ならば。
「では皆で行きましょう。それなら良いでしょう?」
その言葉に異を唱えるものはいなかった。




