メアリー様、限界オタクがバレて落ち込んでいます
ひとしきり笑った後、殿下は落ち着けるように大きく息を吐いた。
「はあ、笑った。こんなに笑ったのは生まれて初めてかもしれない」
「何が殿下のツボを押さえたのか、完全には理解出来ませんが笑うことはいいことですわ」
「いや、実をいうと僕も何がそんなに面白かったか分からないけれど、とにかく面白かった」
そういうことってあるよね。冷静になるとなんであんなに笑ったんだろうとか。けれど思い出し笑いするくらいにはまた笑えてしまうこともあるよね。
「全く、練習のために集まったのにどんどん離れていくではありませんか。ところで殿下、お水を飲んだ方がよろしいのでは?」
「ああ、ありがとうパトリシア嬢。言われれば喉が渇いた」
パトリシア様が、休憩用にと用意していた水を差し出す。結局そのまま、一休みすることになった。
色々あったしね。途中全く関係ないことだったのは否定しない。
ふとメアリー様に目をやると、明らかに落ち込んでいた。簾が見える。
「メアリー様、先ほど芝生に転んだことで制服が汚れていますわ。少し向こうで洗えばすぐに落ちるでしょう。行きましょう」
「え? でも」
「早く落とさないと、落ちにくくなりますわ。皆様、もう少し休んでいてくださいませ」
メアリー様を急き立てて離れる。まあ実際にはメアリー様の制服は汚れていないのだけれど。わたくしが下にいたので。
けれど皆様は疑わず、すんなり送り出してくれる。側から見てたら、メアリー様も汚れていてもおかしくなさそうな感じだものね。
少し離れて、声が聞こえない位置までくると、メアリー様に尋ねた。
「大丈夫ですか? 元気がないようですが、もしかして鼻血を出しすぎて貧血ですか?」
「そ、そういうわけではないです」
「では、どうされましたの?」
メアリー様は目線を逸らしてしまう。無理に聞こうとせずに、少し待っていると恐る恐るというふうに聞いてきた。
「あの……ヘンリエッタ様は、引いていないのですか? その……」
「もしかして、先ほどのメアリー様の行動の話です?」
「は、はい」
「結論から申しますと、引きはしましたが嫌悪感はありません」
「引いてはいたんですか」
「ええ、否定はしませんわ。けれど、メアリー様そのタイプであろうと予想はしておりましたので、そこまで驚きませんでしたわ」
「な、なぜわかったのですか⁉︎」
メアリー様、もしかしてあれで隠せていると思っていたのだろうか。
どう考えても色々漏れていましたけれども。
「えっと、ダニエル様の話をする時の早口の感じとか、殿下と話すときの態度とか……緊張だけではなかったでしょう。目もキラキラしていたので興奮しているんだなぁと。極め付けはダニエル様に触れて気絶しましたし。前世で言う‘’限界オタク‘’でしたね」
「ああああああ……。頑張って抑えようとしてたのにぃ」
メアリー様は地面にめり込みそうなくらい落ち込んでしまった。
「いえ、抑えようとしていたのもわかりましたわ。頑張っていましたわ」
「それすらバレてるのが恥ずかしい。穴掘って埋まりたい」
もはや涙目だ。うん、さすがヒロイン。可愛い。ではなくて。
「まあ。メアリー様、恥ずかしがることではないでしょう?」
「え?」
「それほどまでに何かを好きになれるのは素晴らしいことだと思いますの。わたくしはそんな風な‘’好き‘’は持っていませんから」
「……」
「いえ、好きなことがないわけではありませんわよ? 家族も、パトリシア様もメアリー様も大好きですわ。それにわたくし、モットーとして、愛情表現は大袈裟なくらいにやることにしてますの」
「確かに、ヘンリエッタ様はストレートな愛情表現をしますね」
「でしょう? 好きを抑える方が良くない方向へ行ってしまいますわ。人に迷惑をかけなければ、表現するのは自由ですもの」
前世でも、好きが強すぎるあまりストーカーしたり、プライベートを躍起になって探ったりとかあったけれどそう言うのは論外だと思う。
相手のことを考えない愛情表現は愛情じゃない。ただの自己満足だ。その人を犠牲に自分を満たしているに過ぎない。
「だから、メアリー様。恐れる必要はありませんわ」