いざ、練習ですわ!
というわけで、メアリー様はパトリシア様に任せて練習を始める。
殿下は10メートル先にある的を指差した。
「じゃあまず、ヘンリエッタ嬢とトミーにはあの的に向かって魔術を放ってもらおうか」
「承知しましたわ。先にやらせてもらいますわね、トミー」
「はい、姉上」
心を落ち着けて、自分の魔力に集中する。
この世界の魔術は術と付くだけあって、かなりの集中を要する。なので基本1人で戦うということはない。
連携が物を言うのだ。
「我に仇成すモノを貫け【環流】」
自分の魔力が詠唱と言う道に乗り、練り上げられ一本の槍の様になる。
的に真っ直ぐ軌道を描いて当たる。しかし、中心からズレたところが欠けていた。わたくしはコントロールがまだうまく出来ないので、逆にいつもより狙った場所に近くはなっている。
「では僕ですね。彼モノを切り裂け【烈風葉】」
鋭い音を立てて、的が真っ二つに裂ける。
わたくしが知ってるより威力凄くない?
流石トミーだわ。
殿下は顎に手を当てて頷いている。というか15歳なのにその様が似合うってどう言うこと。
「うん、2人とも悪くないね。ヘンリエッタ嬢はコントロール、出来れば威力ももう少し上げたいかな。トミーは威力は申し分ないけれど、魔力消費をもう少し抑えたい」
「やはりそこが課題ですわね。努力いたしますわ」
「魔力消費ですか……。では殿下、消費の抑え方を教えてください。今まで意識したことないので」
「ああ、もちろんだ。ヘンリエッタ嬢は初めはコントロールを重視して、慣れてきたら威力をあげよう」
「はい」
わたくしの方は練習を繰り返せば段々とコントロールは付いてくる。頑張ろう。
殿下はトミーに向き合っている。いつもは何かと張り合う2人だけれど、トミーは素直に殿下の言うことに耳を傾けている。
うん、トミーは根は素直だもの。大丈夫そうね。
今度はダニエル様を見ると、的に向かって魔術を放っていた。ダニエル様は土属性の使い手だ。ドゴォッと言う音と共に的が吹っ飛ぶ。
ちなみに的は自動修復があるので自動的に復活する。どう言う魔術なのだろう。
わたくしもそちらに行く。ダニエル様はこちらを見て、また的に視線を戻した。
「流石スタンホープ家の者ですね。魔力保有量も多く、扱いが長けています」
「あら、ありがとうございます。けれどダニエル様の方がコントロールはお上手ですわ。土属性も凄く力強く感じます」
「お世辞は必要ありません。どうせバーナード公爵家に似つかわしくない魔力保有量の少なさですから。貴女も知っているでしょう?」
「……えっと、存じ上げませんでしたわ」
「は? 定期的なお茶会でもたまに話題に上がっていたのに?」
「まあ、では話題にしていた方々は側近候補から落ちた方々でしょうか? 殿下がその様なことをお許しになるとは思いませんし」
ごめんなさい。あまり関わり合いになりたくないものですから聞いておりませんでした。なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、論点をズラす。
ダニエル様は察した様で呆れた様にため息を吐いた。
「スタンホープ侯……いえ、ヘンリエッタ嬢は本当に我々に近づきませんでしたしね。知らないのも無理はない……と言いたいところですが、情報は武器になるのですから甘く見ない方が良いですよ」
「肝に銘じておきますわ。けれど、ダニエル様も人の事を言えないのでは? わたくしのことをあまり知らないでしょう?」
「みくびらないていただきたい。そもそもアルフィー子息やトミーから話は聞いているのである程度知っています。貴女が近づいてこないから、私も近づかない様にしただけで――」
そこでハッとした様に言葉を止めるダニエル様。
わたくしは何が言いたいか分かってしまう。このお方、結構気遣ってくれていたのね。
「まあ……わたくしったらダニエル様の優しさに気が付かず申し訳ありません。そうしますとこれからダニエル様の事を知らなくては行けませんね。色々教えてくださいな?」
「べっべつに貴女の為ではありませんから。厄介な事にならないようにしただけですので」
メガネを押し上げながら、耳を赤くして言っても説得力のかけらも無い。
なるほど、ツンデレか。これは確かに良い。




