仲間として距離を縮めましょう
魔術練習場に着いたところで早速練習を始める。
殿下はある程度計画を立ててくれたようで、紙を配ってくれた。
……今日の朝話したから……これ、きっと授業中にやっていたわね。殿下もそういうところあるのか。あ、殿下のことだから授業の内容はもう理解できているだろうし、確かに必死でノートを取る必要もないのかも知れない。
というか、割と紙が黒いのだけど……。うん、でも期間を考えたらこのくらい詰めないといけないかもしれない。
「それじゃあある程度計画を立てたから、皆見てくれ。正直、かなり詰め込んだものだからキツイ期間にはなると思うが、都度確認はしていくから気になったことがあったら聞いてくれ」
「「「はい」」」
「特にキャンベル男爵令嬢は、今回の中心だからね。気になることがあったら、なんでも聞いてほしい」
「は、はい!」
メアリー様も気合は十分のようだ。それにしてもわたくしは別のことが気になって仕方がない。
「あの、殿下。直接関係ないことでもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「メアリー様だけ家名呼びは変ではありませんか? せっかく同じ目的があるのですし、仲間なのでしょう?」
「へ、ヘンリエッタ様、私は……」
「確かにそうだね。これからはメアリー嬢と呼んでも?」
メアリー様が何か言う前に、殿下は了承の意を示す。
「こ、光栄です」
メアリー様はそれ以上は何も言わずに、殿下に答えた。
「それじゃあダニエルも、メアリー嬢と呼ぶんだよね?」
「えっ」
「そうですね、私だけ家名呼びもおかしいですし。よろしいですか? メアリー嬢」
「……」
「……メアリー嬢?」
「……ぷしゅう……」
「⁉︎ メアリー嬢⁉︎ しっかりしてください」
メアリー様はオーバーヒートしてしまった。
頭から湯気が出ている。倒れ込みそうになる体をダニエル様が咄嗟に支える。うん、メアリー様は気絶してしまったようだ。逆にその方がいいかもしれない。
「バーナード様……あ、いえこうなるとダニエル様と呼ばせていただきますね。そういえばダニエル様は皆の事を家名呼びでしたね。わたくしたちもどうぞ名前で呼んでくださいませ」
「はい、そうさせていただきましょう。……それではなくてですね。メアリー嬢をどうすれば……」
「ふふ、あそこの木陰に連れて行きましょう。ダニエル様が枕になって差し上げても良いのですよ?」
「まっ⁉︎」
ダニエル様は真っ赤になっている。いや、ウブすぎません? これはお互い前途多難だなぁ。
「ヘンリエッタ嬢、あまりダニエルをいじめるんじゃない」
「流石にこれで赤くなるとは思いませんでしたの。では殿下はいかがです?」
「それを本気で言っているのなら、私の行動を改めなくてはな」
「もちろん冗談ですわ。今回の指揮は殿下が中心ですもの。離れられてはうまくいかないでしょうし」
「そうではないのだが」
最後にトミーはと思ったけれど、いい加減ふざけるのはやめよう。メアリー様も目が覚めたら男性に膝枕されていたってなったらまた気絶しちゃいそうだし。
「では、わたくしが診ますわ。皆様で――」
「いいえ、わたくしがそばに居ます。ヘンリエッタ様お昼休みも参加できなかったのですし、わたくしに任せてくださいませ」
パトリシア様が手を挙げた。
確かにパトリシア様の言う通りかもしれない。
「承知しましたわ。では、よろしくお願いします。何かあれば呼んでくださいね。ところでパトリシア様、膝枕は知っておられますか?」
「貴女のおかげでそう言う知識も付いてしまっていますわ。安心してください」
「パトリシア様の膝枕……わたくしもしていただきたいですが、またの機会にしますわ」
「そんな機会はありません」
「そんな殺生な!」
そんなやりとりをしていた隅で、男子3人が集まって話していた。
「枕って膝枕のことでしたか……いや、どちらにせよ……」
「ダニエル、君以外とむっつりか?」
「違います‼︎」
「姉上には近づけさせませんよ!」
「違うと言っているだろう!」
ダニエル様……もしかして腕枕と勘違いした?
流石にわたくしもそれは止めますわ。




