このメンバー、違う意味で不安ですわ
そしてその日の授業が終わった後。殿下が呼びかけてきたので皆が集まる。
「あの、我が弟トミーも一緒に参加したいと言っているのですが、いいでしょうか?」
「トミー様が? まあ、そうなりますわよね」
パトリシア様はうんうんと頷いている。
「ええ、トミーは魔力もとても潤沢ですし、メアリー様にとっていい刺激になると思いますの」
「けれど、そうなると話がしにくいのではないかい? 全部は話していないだろう?」
「はい、トミーのことですから、授業を投げ出してしまうかもしれませんし。ですから何かいい案がないかと思いまして」
「断るという選択肢はないんだね」
「もちろんですわ」
殿下は苦笑している。顔に思い切りブラコンと書いてあるのがなんとも言えませんわ。
「まあ私も予測はしていたよ。せっかくだ。私の方からトミーには話そう。ちょうど他の件もあったしね」
「そうなのですか? ではよろしくお願いしますわ」
殿下が話していくれるなら、大丈夫だろう。それこそ本当のことはわたくしとメアリー様しか知らないけれど、本筋ではないし。
「ではどこで練習いたしますの?」
「魔術練習場を借りているよ。特に授業以外で使うこともないらしいから、すんなり許可取れたんだ」
「殿下の人柄もあるのでしょうね」
そんなことを言えば、殿下はこちらを見つめてくる。しまった。最近殿下の有能ぶりに驚くことが多かったせいか、流れるように誉めてしまった。
いつもは言わないようにしているのに。
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、許可を取ってくれたのはダニエルなんだよ」
「まあ、そうでしたの。早とちりしてしまって申し訳ありません。バーナード様、ありがとうございます」
バーナード様の方を見れば、メガネを押し上げている。あ、耳が赤い。
その奥でメアリー様が口を押さえている。悶えているなぁ。なんかカオスだ。
「……このくらいなんてことはありません。同じクラスメイトとして当然のことをしたまでです」
「ふふ、殿下といる以外は勉強ばかりしているバーナード様ですが、結構お優しいこともあるのですね」
「……」
「ダニエル、言っただろう。勉強も大切だが、交流を持たないといけないと。現に比較的付き合いが長いはずのヘンリエッタ嬢にまで本の虫と思われているぞ」
殿下も揶揄うような口調だ。バーナード様は無言だが、口を開けたり閉じたりしているし、メガネの位置を何度も直している。
わかりやすいなあ。なるほど。確かにこれは人気でるのも頷ける。
後メアリー様が放心状態になっている。多分あれは心の中で壁を叩いているんじゃないかな。
と、トミーがやってきた。少し不安そうな顔をしているけれど、断られると思っているのかな? いや、もしかしたら演技かも。だって殿下相手にも物怖じしないから。
「トミー、了承をいただいたわ。一緒にやるからには、メアリー様のためにも頑張りましょうね」
「よかったです。皆さん、よろしくお願いしますね」
トミーが笑顔全開で言う。眩しいわ。笑顔が浄化の能力を持っているに違いないわ。
「ああ、トミーもいてくれれば心強いよ。それじゃあ行こうか」
そして魔術練習場へ向かう。トミーがエスコートしようと手を差し出してきたので、笑いながら手を重ねた。
その様子を見て、殿下もパトリシア様をエスコートする。パトリシア様はすましているが、少し頬が緩んでいる。
そして流れ的にバーナード様が、メアリー様に手を差し伸べる。バーナード様、目を合わせなさい。
いや、やめた方がいいか。メアリー様、動きがすごく硬い。手が震えている。
なんだろう、この初心者同士(メアリー様に至っては間違いではない)のようなお互いの動きは。
手を重ねた後、メアリー様は空いている手で目元を隠し、「ふぎゅう」と声を上げている。大丈夫かな。わたくしで聞こえているからバーナード様に聞こえてないはずがないんだけれど。
別の意味で不安に駆られながら、歩き出した。




