トミーも仲間になりたいようです
さてこの後の説明をどうするかとトミーを見ると、何故か笑顔だった。
しかも何かを企むようなあくどい笑顔ではなく、嬉しそうな、幸せそうな笑顔だった。
この一瞬でそんなに嬉しいことがあったのかと首を傾げてしまう。
「トミー? 何がそんなに嬉しいの?」
「ふふ、姉上が殿下より僕を優先してくれるなんて。最近の姉上は僕を忘れたように動き回っているから寂しかったんですよ?」
「ごめんなさい。こんな可愛い弟を忘れるわけがないわ。けれど本当に色々あるものだから蔑ろにしてしまってごめんなさい」
そう言いながら、思わず頭を撫でる。ふわふわな茶色の髪が気持ちいい。トミーも嫌がらずにされるがままだ。
「それで? 殿下たちとこれから何をする予定なのです? 説明してくださるのですよね?」
「もちろんよ。そのためでもあるのだから。実はね、メアリー様が魔術の扱いがもっとうまくなれないかと悩んでいたの。わたくしとパトリシア様で相談に乗っていたら、殿下も力になってくださることになったの。そうしたら先ほどいらしたのね。まさかそんなに早く、練習に入るとは思わなくてトミーに説明するのが遅れてしまったわ。ごめんなさいね」
大きな理由は伏せて説明する。結局のところ、こういうのが整合性が取れていいのよね。
トミーも納得したように頷くと、再び満面の笑顔で言った。
「では、僕も放課後一緒に練習に混ぜらせてください」
「え? トミーはもう魔術は扱えているじゃない? わたくしたちに合わせると物足りないのではないかしら?」
「もう、姉上。わざとですか? ……いや、その顔は本気で思っていますね」
「どういうことかしら?」
「ハハッ。へティは変なところで鈍感だなぁ」
そこで静観していたお兄様が吹き出した。わたくしがさらに首を傾げると、涙目になって笑っている。
「全く……トミーも仲間に入りたいんだよ。それ以外に何があるんだい」
「え? そうなの、トミー」
「そうですよ。殿下に姉上は独占させな……うゔんっ。是非とも殿下の魔術を見てみたいですしね」
本音が隠しきれていないけれど。突っ込まないでおこう。
けれど演習がある時、トミーはクラスが違うので頼れない。そんなトミーがいるところで魔物が押し寄せる話をしようものなら。
うん。授業サボりそう。いや、トミーもいてくれたら心強いけれど、わたくしではうまい具合に参加させる作戦が思いつかない。
「それにこの間、2人で父上のところに行っていたでしょう? 僕だけ仲間はずれなんてひどいです」
「気づいていたのね」
「ええ、扉越しに話を聞きましたからある程度は知っていますけれど」
「盗み聞きはよくないわね」
堂々と盗み聞きをしていたのか。そしてそれを暴露するか。
「そこまでわかっているならいいじゃないか。きっとメアリー嬢はトミーと同等の魔力を持っているだろうし、参考になることもあるだろう」
お兄様も詳しい話はしていないので、楽観的に考えているようだ。まあ普通はそうだよね。
ここで断るのも、何か勘付かれてしまいそうなので頷いておこう。
そこでどうするかも、相談させてもらおう。
「そうですわね。では一応皆様に聞いてみますわ」
「ここで即答してくれないのですか?」
トミーは頬を膨らませる。可愛い。見た目はほんと天使だ。
「許してちょうだい。流石になんの報告もなくというわけにはいかないわ。皆様嫌がるということはないでしょうし、確認するだけよ」
「物事には順序があるからな。トミー、いい子で待ってるんだぞ」
「兄上、どうして急に幼子扱いするんですか」
「すまない。トミーのその表情を見てたら、つい」
そう言いつつもお兄様は、少し乱暴にトミーの頭を撫でた。
トミーはますます膨れっ面になるが、やがて笑い声に代わっていった。




