心強い助っ人です
メアリー様も魔力暴走を起こしたことがあるかもしれない。
そのことはメアリー様にとっても衝撃だったようだ。恐らくゲーム内では語られなかったのだろう。
それが似た世界だからなのか、それとも設定上も元々そうだったのか、調べる術はない。
「殿下、メアリー様の魔力暴走が原因の1つだとして、どうすれば良いのでしょうか」
パトリシア様が心配そうに尋ねる。もしかして記憶を思い出さないといけないとかあるのだろうか。
トミーの時もそうだけれど、負の感情がトリガーになることもあるし思い出すことが正しいことなのだろうか。
「方法としては、少しずつ魔力の出力を上げていくことかな。かなり地道な作業ではあるけれど、最も確実だ。そうして体を慣らしていけば、いずれ耐えられるようになるはずだよ」
「……それはどのくらいかかるのでしょうか?」
「一概にはいえないけれど、短くても半年くらいかな。もちろん本人の状況によって短くなったりすることもあるみたいだ。ただ、無意識に魔力が抑えられているのなら、時間はかかると思っていた方がいい」
「そんな……」
メアリー様は落ち込んでしまう。覚醒イベントは1ヶ月と少ししかないのだ。圧倒的に時間が足りないと思う。
そんなメアリー様を見て、殿下も何かを感じ取ったらしい。
「……急ぎなら荒療治と言う手もあるけれど、本人への負担が強い。また魔力暴走を起こしかねないからね」
「でも方法だけでも教えてくださいませんか? 次の演習までにはできるようにしたいのです」
「ふむ……そこまで切羽詰まっている理由を聞いてもいいかな? 次の演習は、うまくいかなかったとしても大きな減点にはならないはずだけれど」
「そ、それは……」
流石に殿下にまで、夢としたことを言いにくいのだろう。それもそうだ。下手したら不敬罪とか言われても仕方ない気がする。
うん、ここはわたくしが出ようではないか。
「わたくしから説明いたしますわ。その前に殿下、今からする話を荒唐無稽な物だと思ってしまってもわたくしは仕方ないと思っております」
「いいよ、聞こう」
「はい、メアリー様は幼い時からたまに夢を見たそうです。それは、母親と死別し男爵に引き取られるなど所謂‘’予知夢‘’のようであったと言います」
「それが今回と関わりがあると?」
「はい、今回は演習で魔物の群れに襲われたそうです。夢の中とはいえ、ひどい有様だったとか」
「なるほど……キャンベル男爵令嬢は、本当に起こると思うかい?」
「……はい。あまりにも鮮明で……。悲鳴や怒号が響いていて、とても夢には感じられませんでした。その……自分でも考えすぎだとは思うのですが、念のため対策はしておくべきだと思いました」
殿下は顎に手を当てる。しかし、それは少しの間で笑顔を浮かべながら、信じられないことを言った。
「それじゃあ、私が教えてあげよう」
「……はい?」
何を言っているのかしら。いや、確かに殿下は魔術の扱いに長けているけれど、そもそも属性が違う。
あと、どんな理由にせよ特定の令嬢と仲良くしたら周りがどんな目で見るかは明白だ。
殿下がそんなことわからないはずがないのだけれど。
「で、殿下? 本気ですか?」
「本気だよ。ああ、ヘンリエッタ嬢が心配することは大丈夫だ。何故ならここにいる皆が一緒にやるからね」
「え?」
どうしよう、ついていけない。でもわたくしだけではないらしい。パトリシア様も、バーナード様も驚いている。
「しかし、殿下はお忙しいのでは……」
「夢とはいえ、魔物に襲われるのを黙って見ているわけにはいかないね。魔術の修練と一緒に、どこか魔物が入り込めそうな場所がないかも探さないと」
このお方は存外柔軟性に富んだ人のようだ。呆れられるかと思ったのに、対策をわたくしたちより練っている。
すごい人だな。
「殿下がそう言って下さるのでしたら百人力ですわ。わたくしたちも魔術が上達すれば、魔物の大群を却られますもの」
わたくしがそういうと、殿下は嬉しそうに笑った。




