デジャヴです
「殿下だなんて⁉︎ そ、そんな私のようなものが話しかけられる人ではないです」
わたくしが反応するより早く、メアリー様が全身で遠慮している。
そんなメアリー様に、宥めるようにパトリシア様は言った。
「わたくしたちのお友達でしょう? 何も問題はありませんわ。それに殿下も夢とはいえ、被害が出る可能性があるのならば無碍にはしませんわ」
「で、でも……」
「今、私を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、どうしたのかな?」
「「ひゃっ」」
なんだかデジャヴ。
振り返ると、殿下とバーナード様が立っていた。
パトリシア様は気がついていたようで、いつも通り挨拶をする。
「おはようございます、殿下。バーナード様」
「ああ、おはよう」
バーナード様はペコリと礼をするのにとどめた。わたくしたちも続く。
メアリー様を見ると、なんだか赤くなったり青くなったり百面相している。
あ、そうか。バーナード様に並々ならぬ思いを抱いているから、こんなに近いのに興奮しているのね。けれど殿下もいて緊張していると。
「先日から一緒にいる令嬢が増えたんだね。よかったら私たちにも紹介してくれないかい?」
さすがだ。こう言われれば、紹介せざるを得ないし、むしろメアリー様のことも考えている。
「メアリー・キャンベル男爵令嬢ですわ。それにしても殿下。いつから聞いておられたのです?」
「魔術の話をしているくらいからかな。キャンベル男爵令嬢は、光属性だったね。やはり扱いが難しいかい?」
「えっ……と、はい。演習もあることですし、使えるようになりたいのですがうまくいかなくて」
メアリー様は緊張のためか、汗をかいている。大丈夫かな。確かにわたくしたちにも最初は緊張していたけれど、その比じゃない。
そういえば、この世界を知っているのなら殿下にも臆さずコミュニケーション取れそうだけれどどうしたのだろう。
「確かにそうだね。ふむ……キャンベル男爵令嬢。魔術じゃなくていい。私に魔力を当ててみてくれないかな?」
「殿下⁉︎ 突然何を言い出すのです」
殿下の言葉にいち早く反応したのはバーナード様。びっくりした。この方がこんな声出すんだ。
あまり話さないので驚いてしまった。
「大丈夫。魔力だけなら大したことにならないよ。それに私なら、何かあっても対処できる」
「……わかりました」
「じゃあ、キャンベル男爵令嬢。やってみて」
「え、はい」
殿下、こんな時に自然に相手を従えるような圧を放たないでください。まだ優しい雰囲気があるからいいけれど。
こういうのも出来るのもやはり、上に立つ者の力か。
メアリー様は、手のひらを殿下に向ける。殿下も同じようにするが、触れ合う寸前で止めた。
メアリー様は目を閉じる。ほのかに手が光り、消えた。
「……ふむ。これは珍しいな」
「な、何がわかったのです?」
思わず聞くと、殿下は応えた。
「……魔力が抑えられている。しかし、そのような道具や魔術を使った痕跡は見られない。キャンベル男爵令嬢、魔力暴走を起こしたことはあるかい?」
「……いいえ。ないと思います。少なくとも私の記憶にはございません」
「なるほど。……これは推測だが、キャンベル男爵令嬢は魔力暴走を起こしたことがあると思う。そしてその記憶に蓋をしていて、同時に魔力を抑えてしまっているんだと思う」
「私が……?」
メアリー様は信じられないようだ。
それもそうだけれど、殿下のその技にわたくしは驚いてしまう。確かに魔力保有量は他者に魔力を当てて把握することができる。
しかし、大体同属性でないとうまくわからないことが多い。それを属性が違う上に本人が知らないことまでわかるなんて。
殿下、あなたは何者ですか。やはり王族だからか。
いや、幼い時から魔物討伐もしているし、きっと努力の結果ももちろんあるのだろう。それを奢ることなく、しかも他者のために使う。
この方が治める国も安泰だろうな。
なんて場違いに考えていた。




