魔術を行使するためのコツとは
執務室の扉をノックする。すぐに、執事長のトーマスが顔を出した。
「おや、坊っちゃまとお嬢様。何か御用でしょうか?」
「ええ、お父様に相談したいことがあるの。時間を作っていただけないかと思って」
「少々お待ちください」
ややあって、トーマスはわたくしたちを部屋へ招き入れてくれた。
お父様は真剣な表情で、書類と向き合っている。いつものどこか抜けたお父様とは別人のようだ。
「2人が来るなんて珍しいな。相談したいこととはなんだい?」
「光魔術について知りたいのです」
「光魔術……あぁ、メアリー嬢のためか。へティは優しい子だ」
そういうと、ソファに座るように促した。休憩も兼ねるのか、トーマスにお茶を頼む。
「さて、何から話そうか。まずはどんなことが知りたいんだい?」
「そうですね。まずは光魔術の習得難度でしょうか。かなり難しそうではありますが」
「なるほど。確かに光魔術は多くの魔力を必要とするからね。とはいえ、魔力が潤沢にあったとしても、使いこなせるかは本人次第だ。勉強に得手不得手があるように、魔術にも同じことが言える」
「魔力があるから絶対に魔術が得意になるわけではありませんのね」
「そうだね。けれど、苦手なことも繰り返し繰り返しやることでできるようになることもあるだろう。じゃあ苦手なことを出来る様にするために、まず何が必要かわかるかい?」
「……基礎、でしょうか」
「その通りだ。とにかく基礎ができれば、どうにか形にはなるものさ。じゃあ魔術における基礎とはなんだと思う?」
「魔術における基礎……知識、でしょうか? 魔術がどのように発動するのか、なんのために発動するのか。あとは、その魔術が出来た経緯とか?」
「うん、その通りだ」
前世でも漢字の成り立ちを知ると、その漢字を覚えやすいとかあった気がする。そう考えるとわかりやすいかも。
基礎固めか。そういえば、メアリー様は引き取られてから1年程度しか時間が経っていない。となると、魔術の勉強はほとんどできていないかも知れない。
きっとマナーを優先して教えられただろうから、魔術に関しては本当に学園の授業のみの知識という可能性もある。ここは確認しないと。
「メアリー嬢が魔術を使いこなせるようになりたいと悩んでおられるのです。お兄様に聞いたところ、属性により魔術を行使する感覚が違うということもわかりました。わたくしも水魔術は使えますが、光属性では教えられるかというと不安があります」
「確かに魔術を教わるときは、属性と同じ教師に教わった方が出来るようになりやすい。だから学園では色々な教師が日々教えてくれるだろう? 各々感覚は掴めるようになるんだが、周りにいなければ難しいことだね」
なんとかいい案が出ればいいのだけれど、どうも難しいらしい。
ここで、お兄様が口を開いた。
「先ほどの話だけれど、風と水の感覚ね。あれはイメージという意味ではあながち的外れではないはずなんだ」
「イメージですか」
「アルの言う通りだね。まずは知識としての基礎固め。それから、その魔術はなんの目的で使うのかというイメージができれば、やりやすくなるよ」
「参考までにお兄様の抱くイメージをもう少し教えてください」
「そうだな……。風はどこでも吹くだろう? 荒野だろうと、草原だろうと、山だろうと、海だろうと。自由にどこでもそこに感じることができる。水はそこに入ろうとしたものを、拒絶することはない。万物全て平等に包み込んでくれる」
「なるほど。そう言われると、先ほどのお兄様の言った意味もわかってきますわ」
「けれど、そのイメージだけではうまくいかなかったんだ」
「なぜですの?」
「もう一つの側面もイメージできた方がいいと言うことさ。例えば、2つに共通することだけど、どちらも時に脅威となる。風はあらゆるものを吹き飛ばす。水は全てを飲み込んでしまう。荒々しい一面も理解したら僕はすんなり使えるようになったんだ」
「あらゆる視点を持った方が良いと言うことですね」
イメージか。言われてみれば、わたくしもなんとなくのイメージは持っている。
わたくしは流れると言うかんじだ。明確にはできていなかったけれど。
メアリー様にこの話をしてみよう。何かヒントにはなるかも知れない。




