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転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど!?  作者: 水月華
第3章

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【幕間】侯爵夫人と公爵令嬢


 ヘンリエッタとメアリーが庭園に向かった後。

 アメリアはパトリシアに優しい笑顔を向けながら語る。


「パトリシア嬢は本当に綺麗になったわね」

「アメリア夫人に言っていただけるなんて、光栄ですわ」


 取り澄まして応えるパトリシアだが、ほんのり耳が赤い。もちろんそれをアメリアが見逃すはずもなく、微笑んでいた。

 この数年で淑女の鏡とさえ言われるようになったパトリシアだが、アメリアにとっては娘同然だ。


「へティったら、帰ってからパトリシア嬢のお話ばかりするのよ? ふふ、それでついわたくしは会っている気になってしまっていたのよね」

「そんなにわたくしの話を、ヘンリエッタ様はされているのですか?」

「ええ。ここが綺麗だった、この所作に見惚れてしまった、こんな表情が可愛らしかった……もうそれはパトリシア嬢の顔が鮮明に浮かんでしまうくらいに話すのよ。なんだか逆に申し訳ないわ。ちょっと愛が重すぎる気がするのよね」

「……そうなのですね」


 パトリシアはもう顔を真っ赤にしてしまう。家でこんなに褒めそやされていると誰が予想できるだろうか。

 恥ずかしさのあまり、答えに窮してしまう。


「まあ、あの子は本当に愛情表現に関してはストレートね。一体どこで学んだのかしら」

「……ご家族の愛情の賜物では?」

「それを差し引いてもストレートすぎるのよね。けれど、パトリシア嬢にはそれくらいが合っているのでしょうね」

「正直に申しますと、もう少し遠慮していただきたいですわ」

「ふふ、けれどそれは恥ずかしいからよね。本心では嫌がっていないからへティもやめないのね」


 図星を刺されてパトリシアはついに黙り込んでしまう。

 そう、結局ヘンリエッタはこちらが本当に嫌がったらやめる。その線引きはきちんとしている。

 そしてそれを教えたアメリアは、パトリシアのことなどお見通しだ。


「けれどね、ヘンリエッタのことを大切に思っていても、だからこそ遠慮することではないと思うの」


 その言葉にパトリシアは思わず、カップをソーサーに当てて音を立ててしまう。

 パトリシアの悩みなんてアメリアにはお見通しなのだろう。

 知られたくない人物でもあった。それでも誰かに相談したかった。そんな気持ちすら読まれているのだろう。

 そんな動揺を見抜いているのに、アメリアはそれに触れることなく続けた。


「幼い頃から2人はフレディ殿下の筆頭婚約者候補として、何かと比較されていたわね。派閥の関係から、擦り寄られることも多かったでしょう。ヘンリエッタは全く気にしていなかったから、我が家では全く話題に登らなかったのだけれどね。それに2人が仲良くしているから、それは表面上に上がってこなかった。けれど、へティが一歩下がった状態にしているからパトリシア嬢の方に周りは期待するようになったわね」

「……はい」


 そう、パトリシアの両親は見守っていくれているが、皆そういう者ばかりではない。学園に入学してからヘンリエッタがいない時を狙って、ごますりに来るものも多くなってきた。きっと、将来の王妃になったときにパイプを作りたいのだろう。

 けれどそれは、ちゃんと物事を見れていない者だとパトリシアは感じている。普段の様子でフレディ殿下の興味がどちらにあるかは明白だからだ。

 それが悔しいのと同時に、納得もできてしまう。ヘンリエッタならば、フレディ殿下にふさわしいと思う。

 初めて会った時からパトリシアを何度も救ってくれて、そこからずっとお友達でいてくれた。

 そしてヘンリエッタはパトリシアの気持ちに気がつき、フレディ殿下の興味を引くようにパトリシアを立ててくれている。お互い明確に言葉にはしていないが、パトリシアの恋を応援してくれていた。

 だからこそ。

 最近芽生えた感情を認めたくはなかった。

 パトリシアにとって、ヘンリエッタは唯一無二の存在だから。こんな感情を持つことはあり得ないと。自分はひどい人間だと言うことの証明になってしまう気がしたから。

 きつく握りしめた両手を、アメリアはそっと握った。暖かくて、柔らかい感触に自然と力が抜ける。


「パトリシア嬢がへティのことを思ってくれるのは嬉しいわ。けれど、それで貴女の心を押し殺して欲しくないの」

「でも、わたくしは……」


 パトリシアの唇が震える。一旦噛み締めて、言葉を続けた。

 もう、言わなければ押し潰されてしまいそうだった。


「ヘンリエッタ様は大切なお友達ですわ。なのに、こんな、ヘンリエッタ様がいなければと考えてしまう自分が嫌で……。わたくしだって

幼い時から殿下の隣に立てるように努力してきました。それでも殿下はわたくしを求めない。あんなに殿下に求められているのに、ヘンリエッタ様だって、気持ちが変わりつつあるのを自分で気がついていないのが腹立たしくて。気がついて欲しい、でもまだ気が付かないでほしい、なんて相反するものでいっぱいで。こんな……こんな醜いわたくしをヘンリエッタ様に知られたくありません……‼︎」

「貴女は本当に強いわ。それを表面には出さないでへティと仲良くしているのだから。けれどそれだけが強さではないわ。ねぇ、ヘンリエッタはそんなパトリシア嬢を知って失望するような子かしら?」

「いいえ! そんな人ではありませんわ!」


 思わず大きな声を出すパトリシア。それにハッとしてアメリアを見ると、女神のように笑っていた。


「そうでしょう? わたくしの娘だもの。そんなことしたらお仕置きね。だから、今の気持ちをヘンリエッタと話すといいわ」

「そ、それは」

「急に本人に話すのが緊張すると言うことなら、他の方にも話せばいいのよ。メアリー嬢は力になってくれるわ。第3者がいれば、人って冷静になれるのよ」


 そうウインクして見せたアメリアに、パトリシアはゆっくりと頷いた。

 ああ、本当にこの方は凄い。そう思いながら。

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