ヒロインと悪役令嬢の面白い関係
とにかく、魔物の大群が来ることはわたくしたちだけではどうにも出来ない。
一旦この件に関しては周りの協力も仰がないと。簡単に考えるならば騎士団に言って警備してもらうことだけれど、理由が説明できない。
まさか馬鹿正直に、「イベントでそうなってしまうんです」なんて言おうものならあたおか認定されてしまう。
「……そろそろ戻りましょうか」
「はい」
2人で戻ると、そこにはなぜか家族が勢揃いしていた。
「皆様お揃いでしたのね」
「へティ、メアリー嬢おかえりなさい。楽しめたかしら?」
「はい、とても綺麗でした。ありがとうございます」
お父様がメアリー様に笑いかけた。
「メアリー嬢だね。へティと仲良くしてくれてありがとう。これからもぜひよろしく頼むよ」
「も、勿体無いお言葉でございます」
「ところで、なぜお父様たちはこちらに?」
お兄様とトミーは来てもおかしくないと思っていたけれど、お父様は忙しいのでは? と思って聞いたら、視線が逸された。あ、サボっていますわね。
「ははは、いやぁ。楽しそうな声が聞こえていたものだからついね。ちょっと挨拶しようかなと」
「その割には父上、建物の影から覗き込んでいたではありませんか」
「アルっ」
「お父様……」
トミーも頷いている。侯爵家当主ともあろう人が何をしているのだろうか。やはり家族関係になるとポンコツ気味だ。
思わず呆れた視線を送ってしまう。お父様はしどろもどろになりながら言い訳していた。
「はいはい。アレキサンダーの奇行は今に始まったことではないから置いておきましょう」
「ひ、ひどい」
お母様の追撃についに撃沈してしまった。メアリー様は思わずというふうに笑っている。
パトリシア様も取り澄ましてはいるけれど、微かに手が震えているので笑いを必死に堪えているのかもしれない。
「さぁ、今日はお開きにしましょうか。改めて、パトリシア嬢、メアリー嬢今日はきてくださってありがとう」
「わたくしもとても楽しい時間を過ごしましたわ。今度はぜひ、我が公爵家にも遊びに来てください」
「ええ、楽しみにしているわ」
「私も、とても楽しかったです。貴重なお時間をいただきありがとうございました」
「また会いましょう」
2人を見送るために馬車に向かう。と言ってもメアリー様は送っていくのだけれど。
初めにパトリシア様が帰る。
「本当に今日はありがとうございました」
「わたくしもアメリア夫人と話せて嬉しかったですわ。メアリー様、今度は我が公爵家に招待させてくださいね」
「は、はい! パトリシア様の恥にならないように頑張ります」
「ではまた学園で」
こうしてパトリシア様を見送り、メアリー様を送る。
帰りはお互い色々考えてしまい、無言だった。
それでも、これだけは伝えないといけないと思い、そっとメアリー様の手を握る。
「メアリー様。これから大変なことがありますが……どうか1人で抱え込まないでくださいね」
「ヘンリエッタ様……」
「きっとわたくし個人では微々たる力ですが、スタンホープ家の力も使えば解決できることもあるはずです。先ほどの父は頼りなく見えたかも知れませんが、仕事に関しては有能ですので、絶対に力になってくれます」
「そんな……私、ヘンリエッタ様にもらってばかりで悪いです」
「いいえ、メアリー様には返せないくらいの大きな恩ができましたもの」
「恩?」
「ええ。わたくし、ここが乙女ゲームの世界だと確証が持てず、でもどうすればいいかわからなくて不安でしたわ。けれどメアリー様のおかげで安心できましたの。だから、恩を返させてもらいたいのです」
「でも……」
そうは言っても渋るメアリー様に、今度は茶目っ気を覗かせて言った。
「あら、ヒロインでしたらここはちゃんと頷き返すところでしてよ。ヒロインは自然と周りに助けられる存在なのですから」
メアリー様は目を丸くした後、笑っていった。
「その助けられる存在に悪役令嬢がいるのは面白いですね」
本当に。その通りですわ。




