大問題が発生しました
「魔物の大群ですか? 確かに実践ということで魔物は用意されますが、そもそもそこまで危険度が低い魔物のはずですが」
「そのはずなんですが、裏で手を引いて私たちでは対処できない魔物を呼び寄せるというイベントがあるのです」
「そんなことが。……待って、首謀者はわたくしたちではないのですか?」
「そうです。私に襲わせようと画策するのです」
「ゲームのわたくし、根っからの悪役じゃない! ではなく、それならば起きないのでは?」
だって今のわたくしにそんなことする理由ないし。パトリシア様だって絶対にしない。
「いいえ、確率は十分にあります。ここは‘’その道‘’と全く同じ話というわけではありません。パトリシア様やトミー様がいい例でしょう。しかし、大きなイベントは必ず起こってしまうのです。……私の母親はゲーム内では病で亡くなりました。もちろん、私はそれを阻止するべく動きました。けれど、別の病気が見つかってしまい、避けることはできませんでした」
「そんな……」
それは強制力が働いているのだろうか。大元は変えられないと?
「それから実験も含めて、色々試してみました。男爵に引き取られる前に隠れてみたりもしましたが、結局は引き取られています。それに、私はヘンリエッタ様たちに虐められるはずでしたが、現在は違う人にいじめられています」
「過程は変えられても、結果は変わらないことがあるということですね」
「私はそのように考えています。そして、魔物のイベントはメアリーにとって分岐点なのです」
「分岐点?」
わたくしは首を傾げる。メアリー様は少し暗い表情で続けた。
「私は現在魔術を使いこなせていません。男爵家も使いこなせるような人物はここ数世代生まれていないようですから」
「光魔術は使い手は少なくないけれど、使いこなすのが難しいのですよね。魔力消費量も他に比べて多く、ほとんどの方が初級魔法を使っていると聞きますわ」
「はい。そうでなければ魔力欠乏に陥りやすく、最悪の場合もありますから」
「それで、どのようなことが?」
「ここで2つの分岐が起きます。一つは無事光魔術を覚醒して魔物を討伐し、ゲームが本格的にスタートします。もう一つは魔物を討伐できずに、学園にも多大な被害が出てメアリーは……」
そこまで言われれば嫌でもわかってしまう。
声が震えそうになるのをなんとか堪える。
「そんな……乙女ゲームなのですよね? そんなことが」
「ゲームでは恋愛攻略だけでなく、色々な要素があります。その中に魔術解放があり、ステータスを上げる必要があります。SNSでもいきなりのバッドエンドに炎上一歩手前まで行きました」
それはびっくりするだろう。まさか違うジャンルが急に入ってくるとは思うまい。
「……ゲームでは、ステータスを上げれば簡単にクリア出来るものです。しかし、今はどんなに練習しても手応えがなくて……。私、怖いんです。死ぬことだって何回も経験したいわけがないし、他の人まで巻き込んでしまうんじゃないかって」
「メアリー様……」
わたくしはメアリー様の背中に手を回し、上下に優しくさする。わたくしをすごく気遣っていてくれていたのを思い出す。
本当は自分のことで一杯一杯になってもおかしくないのに、それでもわたくしのために動いてくれた。
なんて強い子なのだろう。わたくしが悪役令嬢ではないかと怯えていたのがとてもちっぽけに感じる。
「大丈夫ですわ。今、そのことをわたくしが知れましたもの。同じクラスには殿下、トミーもいますわ。わたくしもコントロールはまだまだですが、使い物になるはずです。まだ1ヶ月半もありますもの。落ち着いて練習しましょう。お父様にも相談して、光魔術の使い方を調べてみましょう」
「ヘンリエッタ様……ありがとうございます」
「ゲームと違って、わたくしたちがついていますわ」
「はい……!」
わたくしはこれからどう動くべきか、頭をフル回転させた。




