攻略対象者:ダニエル・バーナード
ようやく衝撃から立ち直る。うん、ゲームのトミーより、今のトミーを見ないとね。わたくしたちはゲームの世界で生きているわけではない。ここは紛れもない現実の世界だから。
「そういえばヘンリエッタ様はいつ頃前世の記憶が戻ったのですか?」
「8歳の頃ですわ。なのでトミーに会う前ですし、そもそも殿下にもお会いしたことがありませんでしたわ。メアリー様は?」
「私はもう少し早かったですね。確か5歳でした」
「そうなのですね、大変だったでしょう?」
「そうですね。でも母親や周りの人に支えてもらっていたので、頑張れました。実は、思い出して最初の頃は玉の輿に乗れるように頑張ろうと思っていました。そんな時にふと周りの人たちもきちんと生きていると実感してから、メアリーだけれど私は‘’その道‘’のメアリーではないと思ったんです」
そう言うふうに考えられるまでに、かなり悩んだこともあったのだろう。
「メアリー様は強いですね。見習いたいですわ」
「そんな。私は周りに恵まれていただけなので」
「ふふ。……そういえば、メアリー様はこの世界の話を知っていますのよね。キャンベル男爵のことは知りませんでしたの?」
「はい、ゲームではそんなに掘り下げられなかったんです。設定資料集も出るという話でしたが、それが発売される前に私は転生してしまったようなので」
なるほど、そう言うことだったのね。
「では最後にダニエル・バーナード様についてですね」
「あ、そうですわね。よろしくお願いしますわ」
忘れてた。本当に彼とは関わりがなかったのもあるし。
「バーナード様は恋愛ゲームでは絶対に1人はいるメガネキャラですね。理知的で、常に一歩引いて状況を見ることに長けています。殿下の側近候補として努力していて、父親の宰相をとても尊敬していて彼のようにユーモアのある人物になりたいと思っていますが、いかんせん真面目なお方なので――」
「ちょちょちょ、ストップですわ」
急に早口になって、ノンストップで話し始めたメアリー様に驚いてしまう。
目もキラキラいや、ギラギラしていた。メアリー様ってこんな表情もできるのね。
わたくしが強引に止めたことで、メアリー様は我に帰ったらしい。頬をほんのり染めた。
「あ、すいません。つい」
「い、いいえ。その、もしかしてメアリー様はバーナード様をお慕いしてますの?」
「はい! ツンデレというか、感情を表に出すことが苦手で、焦ったいシーンがいくつもあるのですが、そこが本当に胸キュンで寿命が伸びるんです! 美容成分もモリモリです!」
「な、なるほど……?」
勢いがすごい。本当に好きなんだなぁ。
「ふふ、とても好きということが伝わってきましたわ。バーナード様ルートに行くのですか?」
「そんな⁉︎ バーナード様の隣に立とうなんて烏滸がましいです。それにリアルバーナード様が眩しくて近づけません!」
限界オタク状態になってしまった。
「でもヒロインポジションなのですから、大丈夫なのでは?」
「無理無理無理です! そりゃあ、夢見たりしますけれどそんな……」
顔を真っ赤にしている。湯気が出てきそうだ。
パトリシア様もだけれど、恋している少女は本当に可愛い。
「わかりましたわ。こうなればメアリー様の応援をしますわ! これは青春真っ盛りな学園生活になりそうですわね」
「ええ⁉︎ そんな、私はっ」
「遠慮しないでくださいませ! さあ、忙しくなりますわね。1ヶ月半後くらいにグループでの魔術演習がありますし、その時に一緒のグループになれるでしょうか?」
「あっ……」
「? どうしました?」
先ほどまでの真っ赤な顔から、今度は倒れそうなくらいに真っ青になっている。
「大丈夫ですか⁉︎ どこか具合が悪いのですか?」
「い、いいえ、いいえ。あの、どうしても相談したいことがあるのです」
「はい、なんでしょう?」
「その、魔術演習の時に魔物の大群が押し寄せてくるのです」
「え?」
メアリー様の言っていることが理解できず、間の抜けた声が漏れた。




