お母様はエスパーなのでしょうか
その後もいろいろ話して、メアリー様もだいぶ緊張がほぐれてきたように見える。きっと、お母様のフォローが良かったのだろう。
あの後からメアリー様のお母様を見る目が変わっていた。なんというか、憧れているというか信頼できる人と思えたのだろう。
流石お母様です。
「さて、良かったら庭園を見るのはいかがかしら? 昔、へティの希望で色んなお花が植えられて綺麗なのよ」
「ヘンリエッタ様はお花が好きなのですか?」
「えぇ、トミーと仲良くなるきっかけでもあったから、特に当時は気合入れて庭師の方に相談していましたわ。最近は行く機会が減ってしまって申し訳ないのですけれど」
メアリー様は興味があるようだ。4人で行くことになるのだろうと、準備をしようとした時。
「パトリシア嬢は、良かったらわたくしと2人きりでお話ししない?」
「2人ですか?」
お母様の意図が読めず、わたくしもパトリシア様も困惑している。お母様はポンと手のひらを合わせて続ける。
「ええ、わたくしも貴女が忙しいと思ってなかなか招待することが出来なくて、申し訳ないと思っているの。それにいつもヘンリエッタがお世話になっているからお礼も兼ねてね」
「まぁ……そんなふうに考えてくださるなんて、それだけで嬉しいですわ」
「もちろん庭園に行くのも構わないわ。今日は時間が足りなそうだから、どちらかということになるけれどどちらがいいかしら?」
パトリシア様は考え込む。きっとどちらも素敵なことだから迷ってしまうのだろう。少しすると、モジモジしながら答えた。
「わたくし……アメリア夫人とお話ししたいですわ。お花は庭師の方が優秀ですもの。また見れますよね?」
「そうね。ではそうしましょう。2人はゆっくり見てきていいわよ」
そうウィンクするお母様。
そして気がつく。もしかしてわたくしがメアリー様と2人きりで話したいと分かっている?
だからパトリシア様とお話しすることを誘った……?
しかし、流石にそれはないと思いたい。だってお母様には前世のことを話した事ないし、今回だってわたくしから招待とか、とにかく自分から動いた問いことはない。
けれど、お母様を見ていると全てお見通しですよと言わんばかりの笑顔だ。そしてお母様の今までの武勇伝を聞いた身としては、完全な否定ができない。
お母様って、もしかしてエスパーでは? もはや恐怖を感じてしまう。
しかし、それを悟られるわけにもいかないので、にっこり笑ってメアリー様の手を取った。
「わかりました。メアリー様、行きましょう」
「はい」
そうしてお母様とパトリシア様から離れる。エマなど数人の侍女がついてくるけれど、わたくしたちの話は聞こえない距離感を保ってくれるので安心だ。
「まさか、こうして2人になれる機会があるとは思いませんでした。もしかして、夫人に相談したんですか?」
「いいえ、何も言ってませんの。けれどあの様子は何か察していても、おかしくありませんわね」
「凄いですね」
しかし、それに意識を引っ張られている場合ではない。これで詳しい話ができる。このチャンスを逃すわけにはいかない。
メアリー様も同じようだ。
「せっかくですが、お花を楽しむのはまた今度、と言うことになりますわね」
「はい。ではあらすじは大体話しましたよね」
「そうね。今度は各攻略対象との関係を聞こうかしら」
「わかりました。まず、殿下ですね。軽く過去に触れますと、お茶会で殿下と出会ったヘンリエッタ様は一目惚れをしまして殿下の婚約者になりたいと両親にお願いしたそうです」
「なんとなく想像がつきますわ。昔から殿下の側近、婚約者候補が集められてお茶会が開かれていたもの。最初の時に一目惚れしたのね」
「はい。そこから親の権力を使って婚約者に収まります。パトリシア様はこの時、あまり目立たなかったらしくヘンリエッタ様の独壇場だったらしいです」
「あぁ、そういえばパトリシア様、あの頃マナーを厳しく見ていましたがどこか自信がなさげでしたわ。今は大丈夫ですが」
もしかしたら、原作のわたくしの勢いに押されたかもしれない。初対面の時言い返したら固まってしまったから。
押されたら抵抗できなさそうでしたわ。あそこがパトリシア様の分岐でもあったのかも。




