始まります
まだ感情は昂っているけれど、そろそろ落ち着かせないと邸にしてしまう。深呼吸を繰り返して、なんとか落ち着かせる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ。ありがとうございます。ところで目は腫れていないでしょうか?」
わたくしの言葉に、メアリー様は覗き込んで確認してくれる。
「はい、問題ないかと思います。見た目には変化ありません」
「それなら誤魔化せるでしょう。もう少し詳しくお話ししたいですが、一旦持ち込みましょう」
「そうですね。……私も相談したいことがあるので」
「そうなんですの? 今日また時間が取れればいいのですけれど」
話していると、馬車が止まる。どうやら着いたようだ。御者が扉を開けてくれて、迎えにきてくれた執事の手を借りて馬車から降りる。
「うわぁ……」
隣を見ると、メアリー様は感嘆の声を上げながら邸を見上げていた。目もキラキラと輝いている。
正直、男爵家とは比べ物にならない大きさだものね。パトリシア様の住む公爵邸はさらに大きいけれど、わたくしたちの邸も大きい。
「ふふ、お気に召してくれたようで何よりですわ。さあ、母が待っていますわ。行きましょう」
「はい、き、緊張します」
「マナーはパトリシア様のお褒めの言葉をもらえていますもの。大丈夫ですわ」
玄関ホールに入ると、わたくしの専属侍女のエマを筆頭に出迎えてくれる。中心にはお母様が立っていた。
「「ようこそいらっしゃいました」」
メアリー様は侍女の人数に怖気付きそうになったのか、わたくしの袖をちょんと掴んできた。庇護欲が膨れ上がり、抱きしめたくなるがなんとか堪える。
代わりににっこり微笑みながら、お母様の前まで連れて行く。
「お母様、メアリー様を無事にお連れいたしましたわ」
「ご苦労様、ヘンリエッタ。改めて、わたくしはアメリア・スタンホープですわ。ようこそ、スタンホープ家へ。歓迎いたしますわ」
「メアリー・キャンベルと申します。お会いできて光栄でございます」
メアリー様はゆっくりとカーテシーをする。緊張からか、少し動きが硬い。それでもお母様には満足だったようで、笑顔で頷いている。
「ヘンリエッタと仲良くしてくれて、ありがとう。今日はリラックスして楽しんでくれると嬉しいわ」
「はい」
お母様の雰囲気と言葉に少し緊張が取れたのか、笑顔になるメアリー様。ここはさすがお母様だ。
「パトリシア様はこれからでしょうか?」
「ええ、もうすぐ来るはずよ。……あら、噂をすればね」
侍女が近づいてきて、パトリシア様が到着したことを伝えてくれる。
わたくしたちも出迎えるために、姿勢を正した。
「ごきげんよう。アメリア夫人、それからヘンリエッタ様にメアリー様も。遅くなってしまったようで申し訳ありません」
「ごきげんよう、パトリシア嬢。少し見ない間にまた綺麗になったようだわ」
「お褒めいただき光栄ですわ。今日も無理を言ってしまいましたのに、希望を叶えてくださって感無量でございます」
お母様とパトリシア様が話していると、メアリー様がため息を吐いた。その吐息は心なしか熱を孕んでいるようだ。
「……パトリシア様は本当に、淑女ですね。姿勢、声、眼差し全てが気品に満ち溢れていますね」
「そうですね。学園にいる時とまた雰囲気が変わっていますわ。これぞ貴族令嬢です。わたくしも努力しなくてはいけませんわ」
「ヘンリエッタ様も、とても素敵です。いつだってこちらを気遣ってくださってくれています。とても嬉しいです」
「ふふ、ありがとうございます」
お母様とパトリシア様がこちらを向く。どうやら挨拶は終わったようだ。
「では、庭にお茶を用意しているの。今日は天気も良いことだし、外で親睦を深めましょう」
「わたくしたちの侍女はお茶を入れるのが上手なんです。気に入ってくれるといいですわ」
「は、はい」
「お茶菓子も、とても美味しいですわ。メアリー様、遠慮してはいけませんわ。損してしまいますもの」
「まあ、パトリシア様ったら」
わたくしたちのやりとりを見て、お母様はクスリと笑う。
「大丈夫よ。たくさん用意してあるから、皆召し上がりなさいな。今日は楽しみましょう」
そう言って、座るように促した。
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