わたくし、悪役令嬢でした
「やはり、わたくしは悪役令嬢なのですね。……あら、今1人と仰いました?」
「はい。実はパトリシア様も悪役令嬢、というか黒幕として登場します」
「そうなんですの⁉︎」
悪役令嬢が2人。しかも現在一番の親友であるパトリシア様とは。今のパトリシア様は悪役っぽさがこれっぽっちもない。
「えっと、まず1年生の最後の日にヘンリエッタ様は断罪されます。それで平和になるかと思いきや、今度はパトリシア様が動くのです」
「なるほど、わたくしはパトリシア様の取り巻きとして良いように利用されるのね」
「言葉を選ばないとそうなりますね。その中ではお2人は仲がいいように見えず、ヘンリエッタ様が媚びへつらっているようでした」
「ということは今のわたくしたちは関係性からだいぶ違うのですね」
「そうです」
そして1番知りたかったことに切り込む。
「そのゲームの中では、わたくしは誰かと婚約しているのでしょうか? それから攻略対象者は誰なのでしょう」
「ヘンリエッタ様は殿下と婚約しています」
「うわああああやっぱりぃぃぃ」
わたくしの考えた通りで思わず頭を抱え込んでしまう。が、まだ全部聞けていない。
「ごめんさい。取り乱してしまったわ。続けてください」
「は、はい。えっと、攻略対象者は殿下、ダニエル様、トミー様です。他にもいますが、いわゆる隠しキャラなので接触が皆無です」
「あぁ、予想通りのラインナップ! でもお兄様は入っていないのですね」
「アルフィー様はシスコンでしたので、最後までヘンリエッタ様のそばにおりました」
「お兄様……」
わたくしが育てなくても、シスコンに育っていたのか。なんだろう、嬉しいような複雑な気分だ。それはさておき、もう一つ気になることがあった。
「それにしても殿下の婚約者はなぜ、わたくしなのでしょう。普通でしたら爵位が高いパトリシア様では?」
「それはパトリシア様の陰謀ですね。元々ヘンリエッタ様のことは気に入らなかったので蹴落とす為にあえて殿下の婚約者にさせて、最終的にパトリシア様が殿下の婚約者になる算段だったようです」
「あ、いくら現実と違うとはいえ、パトリシア様に嫌われていたと思うと心が痛いですわ」
思わず涙目になってしまう。我ながらパトリシア様大好きである。
「ヘンリエッタ様、ここは確かに‘’その少女は光となって道を照らす‘’の世界です。けれど、全く同じではないです。現に本来であれば私はヘンリエッタ様に嫌われていて、いじめを率先してやっていたんです。でも実際はお2人が助けてくれました。似た世界なのかわかりませんが、未来は変えられます。ヘンリエッタ様がそれを証明してくれたのです」
「……わたくしがやってきたことは無駄ではありませんでしたのね」
そういうのと同時に、安心やら恐怖やら様々な感情が押し寄せてきて視界が歪んでしまう。頬に熱いものが流れる。
メアリー様がハンカチを差し出してくれる。優しい笑顔だ。彼女だって、本当ならわたくしと関わるのは怖かっただろうに。
「うぅっ……わ、わたくし、怖かったんです。自分が悪役令嬢かもしれないって思った日から、破滅する運命なのかと怖かったんです。ストーリーなんて知らないし、でも否定するにはあまりにも情報がなくて。俄知識を引っ張り出して、対処を考えて。そしてやはりわたくしは悪役令嬢なのだとわかって、もしかして今までやってきたことは無駄だったのかと……っ」
「ヘンリエッタ様は、本当に優しいお方です。悪役令嬢ではありません。大丈夫です」
メアリー様が優しく抱きしめてくれる。その温もりを感じながら、わたくしは笑った。
きっと涙と相俟ってグチャグチャな顔だろうけれど、とても嬉しかったから。
心の隅で取れなかった暗い影がメアリー様という光で、照らされたような気持ちだった。




