メアリー様を迎えに行きます
次のお休みまでは平和な日々だった。殿下も挨拶と少しの世間話をするくらいだし、トミーはわたくしとのお出かけのプランを考えるのに夢中だった。
あっという間に集まりの日になる。と言ってもいつものように飾り立てはしないので、ゆったりしている。
その代わりお母様は忙しそうだ。手伝おうとしたけれど、わたくしにはメアリー様の送迎があるのでそっちに集中しなさいと言われてしまった。
キャンベル男爵家には専用の馬車がないらしい。とはいえ、男爵家や子爵家の階級では専用の馬車がないことの方が普通らしい。
その為、メアリー様は学園がある日は寮で暮らして、お休みの日に男爵家に帰っているらしい。まだキャンベル男爵家の養女となって日が浅いので親交を深めようと男爵が望んだということらしい。
その話を聞いて、やはりキャンベル男爵は悪い人ではないのだろうと思う。
ちなみに最初はパトリシア様がメアリー様を相乗りという形で連れて行くと言っていたが、邸がお互いに真反対なので諦めていただいた。
そんなことを思い出していると、馬車の用意ができたのでメアリー様を迎えに行く。
◇◇◇
キャンベル男爵家の前に着く。門の前には既に人が立っていて、こちらが馬車から降りるとかけ寄ってきた。
メアリー様と、第一印象で柔らかいと感じるほど優しそうな男性だ。彼がキャンベル男爵なのだろう。普通なら護衛か、執事に任せるところを、わざわざ本人が門の前で待っているなんて律儀だな。
わたくしはお2人と目を合わせ、挨拶をする。
「おはようございます。メアリー様。そしてお初にお目にかかりますわ、キャンベル男爵。メアリー様と仲良くさせていただいている、ヘンリエッタ・スタンホープです」
「はい、噂はかねがね聞いております。とても聡明なご令嬢であると。そのようなお方が、メアリーと仲良くしていただけるなんて夢のようです」
「まあ、買い被りすぎですわ。それにこちらの方がメアリー様と仲良くしていただいているのですわ」
ニコニコ笑顔を浮かべながらいうと、男爵は感慨深げに目を細めた。
「どうしても元平民ということで孤立気味の我が娘を気に留めてくださるだけでなく、そのようなお言葉まで……。ありがとうございます。メアリーをよろしく願いします」
そう言って頭を下げる男爵は、側から見て不貞を働く人とは思えない。けれどこうして見比べると、お2人は血縁関係を認めざるを得ないほど似ていた。
そこの事情は知らないけれどメアリー様が下唇を噛んで俯いているのを見るに、関係値はまだ低いようだ。
そこに切り込むかは今後の展開次第ということだろう。
「ええ、お任せください。それではメアリー様、行きましょう」
「はい」
「気をつけるんだぞ。いってらっしゃい」
「……いってきます」
そうしてメアリー様と馬車に乗り込んだ。
乗り込んでからはメアリー様は先ほどの態度が嘘のように明るく喋りかけてくる。まだ、触れてほしくないのかもしれない。
「今日は送迎までありがとうございます。本当に何から何まで」
「ふふ、メアリー様と一緒にいれるのです。わたくしも嬉しいですわ」
そこで話を変える。ここはわたくしとメアリー様だけ。密会にはベストである。
「あまり長くお話はできないけれど……確認しますわね。わたくしたちは前世の記憶があるということですわね?」
「そうなりますね。でもどこから話せばいいのか。簡単にあらすじを話した方が良いでしょうか?」
「そうですわね。お願いしますわ」
「はい。前にも話した通り、ここは‘’その少女は光となって道を照らす‘’通称‘’その道‘’という乙女ゲームの世界と同じです。簡単なあらすじはヒロイン――つまり私が男爵家に引き取られて、学園に入学するところからはじまります」
やはりメアリー様はヒロインだったのか。うん、すごい納得。それから、題名ちゃんと覚えとこう。道を照らすのね。
「メアリーは攻略対象者と交流を深めて、最終的にはそのうちの誰かと結ばれて幸せに暮らすという王道ストーリーです。場合によってはさらに上の身分に養子に入ることもありました」
「本当にシンデレラストーリーですわね」
「はい。その王道にハマる人が多くて、前世では大ヒットしていました」
「その中でわたくしも出てくるのですよね?」
「はい……その、悪役令嬢の1人として」
わたくしの恐れていた答えが返ってきた。




