お母様の想像通りでした
次の日。パトリシア様とメアリー様に伝える。メアリー様は服装が制服であることに安心し、パトリシア様は少し不服そうだ。
「わたくしが用意してもよかったですのに」
「母も用意したかったそうですわ。けれどパトリシア様がまた拗ねちゃうといけないので、今回は服装に気を使わない制服にしようと言うことになったのです」
「わたくし、拗ねませんわよ! ディグビー公爵家の力を存分に使ってメアリー様を飾り立てようと思いましたのに」
「それですわよ」
パトリシア様、見ようによっては発言が黒いです。正直、お母様に言われてパトリシア様が張り切るだろうかと半信半疑だったが、結果はお母様の予想通りだったと言うわけだ。
お母様の方がパトリシア様を理解している感じがして、少しもやっとしたけれどそれを表情に出すことはしない。
「そ、そんな。お2人に仲良くしていただけるだけで十分です。そんなドレスなど烏滸がましいです」
「ほら、パトリシア様。メアリー様が萎縮してしまったではありませんか。こういうのは段階を踏まないといけないのですよ」
「むぅ……仕方ありません。今回は諦めましょう」
それにしても、パトリシア様がこうであるようにメアリー様は何か人を惹きつける力がある。かく言うわたくしも惹かれているのだから。
きっと、メアリー様は‘’その少女は光となって天に昇る‘’……何かが違う気がする。いや絶対に違う。題名が不謹慎になっている。ともかく、いわゆるヒロインなのだろう。それならば納得できる。
「では、今度のお休みということで準備をしますわね。とても楽しみですわ」
「ええ、なんだかんだ学園に入学してからこのようなことはできておりませんでしたものね。今度は我が公爵家でもやりましょう」
「ディグビー公爵家でも……⁉︎ わ、私なんでこんなに気に入られて……もしかしてこれって罠?」
最後の方はボソボソ言っていたので、幸いパトリシア様には聞こえていなかったようだけれどその発言は危ない。
本人もここまでされるようなことはしていないから、困惑するのは無理もないだろう。
絶妙にすれ違っているのは笑えてしまうけれど、このことがパトリシア様にも伝われば拗ねるどころではなくなるので今のうちになんとかしなければ。
パトリシア様に聞こえないように、メアリー様に耳打ちする。
「気持ちはわかりますが、パトリシア様は完全に善意ですわ。ちなみにわたくしは以前のお話の続きをしたい、ということです。罠では誓ってありませんから安心してください」
「わ、わかりました。すいません。私の知っているパトリシア様ではなかったので。……彼女は転生者とかではないんですね?」
「ええ、強いていうならわたくしたちの教育の賜物ですわ」
思わずドヤ顔すると、メアリー様は吹き出す様に笑った。
「ちょっと、お2人で何をコソコソ話していますの⁉︎」
なんだかよくないことを話されていると感じたのだろう、パトリシア様が険しい表情で詰め寄ってきた。
「いいえ、ただパトリシア様がとても愛らしいというお話ですわ」
「なぜそのようなことを本人の前で話しますの⁉︎ あなた方には羞恥心がないのですか?」
「まあ、パトリシア様。わたくしたちは乙女ですのよ? 恥じらいはあるに決まっているではないですか」
「急に抱きついたり激しいスキンシップをとるヘンリエッタ様こそ、恥じらいという言葉から最も遠い存在でしてよ」
「パトリシア様が毒舌ですわ。メアリー様、ひどいとは思いませんこと?」
話題を振られると思っていなかったのか、ニコニコしながらわたくしたちのやりとりを見ていたメアリー様は驚いた後、恐る恐るという風に言った。
「え、えっとぉ。その、ヘンリエッタ様の激しさは結構有名になっていますので、否定はできないというか何というか」
「えっそうなんですの?」
「本気で驚いているのが、逆に驚きですわ」
今日1番の驚きだった。




