味方がいません
その後は、パトリシア様食事マナーのお手本を見せた。メアリー様はその気品あふれる姿に感銘を受けたようで、まずは見よう見まねで練習した。
「メアリー様は基礎はできていますわね。何より、姿勢が綺麗ですもの。これならすぐに慣れることができますわ」
「本当ですか?」
「ええ、自信を持ちなさい」
パトリシア様は、満足げに言った。わたくしから見ても、多少のぎこちなさはあるけれど、ほとんど問題がなかった。お兄様たちも感心していた。
「これなら我が家に呼んでも大丈夫ですね。メアリー様がご自身を過小評価していたのです」
「ええ、少なくとも、オズボーン伯爵令嬢たちよりもずっと優れていますわ」
わたくしの言葉に同調して、パトリシア様が誇らしげに言う。それに顔色を明るくするメアリー様とセットでとても微笑ましい。
「それでは、母には参加できるということで返事をしますわね」
「はい、緊張しますが頑張ります」
その後は5人で、お昼休みが終わるまで雑談をして過ごした。
◇◇◇
帰りの馬車はいつも通り、お兄様とトミーが一緒だ。
「トミー、今日は帰ったら一緒にお庭を散策しない?」
「それは今日の穴埋めということですか」
「ええ、今日トミーに寂しい思いをさせてしまったもの。そのお詫びとしてどうかしら?」
「……」
少し考え込むトミー。散策の気分ではなかったのかしら。
「散策が気分でないのなら別のことをするわ。何がいいかしら?」
「そうですね。今日から数時間では足りません」
「え?」
トミーはいい笑顔を向けてきた。嫌な予感がする。
「今度の休み。丸1日、姉上の時間をください」
「1日? 何をするの?」
「色々ですよ。デー……こほん。お出かけもしばらくしていませんから、2人きりで出かけませんか?」
今デートと言ったぞ。絶対に言った。しかも2人きりですと?
いくらなんでも今のトミーと行くのは、リスクが高いような。
「兄も寂しい思いをしたのになぁ。トミーまで僕に寂しい思いをさせるつもりかい?」
「兄上、ここは黙っていてほしいんですが。僕がエスコートしようと思っていたのに」
「そうか、エスコートか。トミーもドンドン大人になって行くんだなぁ。それなら僕は遠慮しておこう」
「お兄様⁉︎」
手のひら返しがすぎやしませんかね。わたくしの味方をしてくれるんだと喜んだ気持ちを返していただきたい。
そんなわたくしにを気にすることもなく、お兄様はしみじみとした表情をしている。
「最近、特にヘティの成長がまた一段と早くなったと思っていたけれど、トミーも気が付いたら大人の階段を登っているんだな。妹たちの成長を見れるなんて僕は嬉しいよ」
「発言がオジ様になっていますわ。まだお兄様も17歳でしょう」
「おじっ」
流石にショックだったらしく、言葉を詰まらせる。しかし、咳払いをして気を取り直すとこちらもいい笑顔を向けてきた。
表情が2人ともそっくりである。
「まあ、今回ばかりはトミーの提案を受けた方がいいんじゃないかい? そのほうがあとで、痛い目を見ないで済むかもしれないよ?」
「う」
ああ、お兄様もわたくしに意趣返ししてますのね。なんということ味方がいない。
すると、トミーがわたくしの手を握ってきた。
「姉上、いいですよね?」
お伺いを立てているが、これはほぼ脅迫だ。目が笑っていない。
イエスと言いたくないが、退路が塞がれている。今回ばかりは諦めるしかないということなのか。
「……分かりました。可愛い弟のためですもの。姉として、付き合いますわ」
思いっきり姉弟を強調して言う。今のわたくしの精一杯の抵抗だ。
トミーはニヤリと笑いながら、応えた。
「えぇ。完璧なエスコートをして見せます。覚悟してくださいね、姉上」
その表情はとても13歳の男の子が見せるものではなく。そして殿下と同じような顔であると気がつき、背筋に汗が流れた。
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