お兄様たちがしょげてしまいました
「あら、お兄様、トミーご機嫌よう」
「ご機嫌ではありません」
とりあえず挨拶をしたが、トミーは完全に不貞腐れている。どうしようかな。
「ヘティ、お友達と仲がいいのは良いことだけど、連絡がないのは寂しいなぁ」
しまった、お兄様もだった。
今回に関しては、完全にわたくしが忘れていたのがいけないので弁解のしようがない。
誠心誠意謝れば許してくれるだろうか。
「お兄様、トミー。申し訳ありません。新しく出来たお友達を喜んでしまって、忘れてしまいましたわ」
「姉上が僕を忘れるなんて……」
トミーはよりショックを受けてしまったが、変に誤魔化すよりはマシだと思っている。
後でボロが出た時の方が絶対にショック受けるし。でも、落ち込むトミーを見てしまうと途轍もない罪悪感に駆られてしまう。
「あ、あの! 私のせいなんです! 教室で注目されてそれで緊張してしまって、お2人に連れ出して貰ったんです。なのでヘンリエッタ様が悪いんでは無いんです」
メアリー様がわたくしを庇う様にお兄様とトミーの前に立つ。驚いていると、パトリシア様も言った。
「ええ、わたくしもお2人のことをすっかり忘れていましたわ。ヘンリエッタ様だけの責任ではありませんもの。申し訳ありません」
なんだろう。凄く嬉しい。
「……ヘティ、僕はヘティの天然タラシぶりに驚いているよ」
「天然タラシ……」
「姉上、やはり今からでも学園長に直談判して僕もAクラスに変えてもらいます」
「トミー、落ち着きなさい」
「落ち着いてられませんよ。そうこうしてる間に誰かに誑かされたらどうするんですか」
「わたくし、そんなにチョロくありませんわ……」
お兄様とトミーはわたくしをなんだと思っているのでしょう。
確かに時々、そう時々スキンシップを取りすぎてしまう時はあるけれど誰彼構わずやるわけではないのに。
「まあそうだね、次に忘れられたらちょっとお仕置きすると言うことにしよう」
「次ですか」
「うん、だから気をつけてね」
「はい」
反抗する気が起きなくて従順に返事をする。
そこでようやくお兄様とトミーの態度が元に戻った。
「それで、今日からキャンベル男爵令嬢も仲間に入るのかな?」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「よ、よろしくお願いします」
メアリー様は頭を下げる。お兄様はニコニコしながら、席についた。
「ヘティが友達を増やしてくれて嬉しいよ。こちらこそよろしく。良かったら僕のことはアルフィーと呼んでくれ」
「僕はトミーです」
「ありがとうございます。私のことはメアリーとお呼び下さい」
お兄様の表情にホッとした様子になったメアリー様。
「お2人とも、ありがとうございます」
「問題ありませんわ。それにしても同じ事を言っても、特にトミー様はわたくしの事を全く、これっぽっちも気にしておられませんね。本当に仲がよろしい事で」
「僕にとって最優先事項は姉上ですので」
「ちょっとトミー」
それ、ケンカ売ってます。やめてください。
「相変わらずシスコン拗らせてますわねぇ。しかし、メアリー様を拒絶しなかったのは成長しましたのかしら」
「姉上はメアリー嬢を気に入ってますからね。余計な事をしなければ大丈夫です」
「なぜかしら、全く安心できませんわ」
パトリシア様は悩ましげに首を傾げる。
「メアリー様はヘンリエッタ様だけでなく、わたくしのお友達ですわ。危害を加えようものならディグビー公爵家を敵に回す事をお忘れなく」
「うーん、友情だねぇ」
「そんな事を言えるお兄様がいちばんの大物ですわね。メアリー様、トミーはああ言っていますがわたくしがいる限り大丈夫ですわ」
「姉上まで僕を危険人物扱いしないでください!」
そこで笑いが起きる。トミーはそっぽを向いてしまったので、ヨシヨシするとわたくしを睨みながらもされるがままだ。
うん、場を和ませるためとはいえ、後でたっぷり甘やかしてあげようと心に決めるのだった。




