メアリー様を誘います①
パトリシア様と教室に戻る。先ほどまで淑女の仮面はボロボロに剥がれていたのに、もう表情はいつものパトリシア様でキリリとしている。
わたくしには仮面を被らないで素の表情を見せてくれているのだと喜びを噛み締めつつ、殿下はその表情が見れていないのかと思うと残念に思う。
もしかしたらわたくしがいないときにそういう表情は見せている可能性はあるけれど、普段の様子を見るに可能性は低そうだ。
パトリシア様は殿下に恋情を抱くのと同時に、尊敬の念も感じる。最近は恋情は側から見てあからさまではないのだけれど(普段でも関わりがない人が見てもわからないくらいではある)、そんな相手に素の表情を見せることはパトリシア様にとって、難しいかもしれない。
多分、恋愛の駆け引き的には見せたほうが上手くいくと思うけれど、自尊心のことも考えると無理だろうな。
本当はメアリー様に今日は挨拶できていないから挨拶したいのだけれど、もう授業が始まるので諦める。その代わり、メアリー様がこちらを見ていたので小さく手を振る。メアリー様は少し恥ずかしそうにしながらも、振り返してくれた。可愛いなぁ。
席に座り、そっと殿下の方を見る。すると、向こうもこちらを見ていたらしく、バッチリ目が合ってしまった。
悪戯な笑顔を見せる殿下に、慌てて教科書に目を落とす。まだ視線を感じていたけれど、もう顔を上げることは出来なかった。
◇◇◇
お昼休み。いつもはパトリシア様と食堂へ向かうけれど、今日からは違う。パトリシア様がソワソワしているのがわかり、とても微笑ましい。2人でメアリー様のところへ向かい、声をかける。
「メアリー様、一緒に食堂へ行きましょう。改めてお兄様と弟に、メアリー様を紹介したいのです」
「は、はい。よ、喜んで」
メアリー様は緊張しているらしい。まあ確かにわたくしがメアリー様に声をかけた瞬間に、教室がざわめいた。それほどまでに周りから見れば衝撃だということだ。
「そんなにおどおどしないでくださいませ。わたくしたちは、と、友達になったのでしょう? 食事を一緒に摂ることくらい普通ではなくて?」
パトリシア様の発言にざわめきが大きくなる。
学園は平等を謳っているとはいえ、高位貴族になればなるほど下位貴族、平民とは関わらない。それは意識の差だったり、安全といったりさまざまな理由からだ。わたくしたちはそれを踏まえるならば、メアリー様と関わることなど本来ならば皆無だ。
だからこそ、皆驚いているのだろう。まあ、割と注目されることには慣れているので、わたくしたちは気にしないけれどメアリー様はもしかして大丈夫ではないのだろうか。
「そ、そうですね! すいません。緊張してしまって」
「まあ、緊張することなんて何もないですわ。では、お二人とも行きましょう」
メアリー様の緊張がピークに達しているようなので、ひとまずこの空間から逃げる。
少し早足で食堂に向かう。さっさとメニューを決めて、いつもの席にメアリー様を連れて座った。
そこでようやくメアリー様が一息つく。
「ごめんなさい。メアリー様はあんなふうに注目されたことないのですよね。配慮が足りませんでしたわ」
「そ、そんな。私、そもそも一緒に食事ができるだなんて思っていなくて、それで余計に驚いてしまって」
ああ、そういう意味でも驚いていたのか。
「まあ、わたくし達が言ったことを忘れてしまったのかしら」
「そうではなくてですね……。えっと、烏滸がましいというか、お友達になっていただけただけで、それ以上高望みしてはいけないと思ったと言いますか」
「パトリシア様、その言い方は威圧感がありますわ。もう少し、優しいトーンで話してあげてください。」
「わ、わたくしはそんなつもりでは……」
うん、それはわたくしはわかっているけれどメアリー様、というか他の方は萎縮してしまう。言い方だけではなくて、‘’公爵令嬢‘’という身分だから。
それを踏まえてわたくしたちは言動を考えなくてはならない。多分、主にわたくしとしか関わりがないから、パトリシア様は萎縮されることがあまりわからないと思う。できれば、皆にパトリシア様の魅力を知ってほしい。
「メアリー様、緊張してしまうかもしれませんが、これからお互いに知っていけると嬉しいですわ」
「わ、私もです」




