パトリシア様は揶揄いがいがあります
気がついたら、1限目の授業が終了していた。殿下が教師にいい感じに言ってくれることを願っているが、完全に他力本願なあたり、いつか痛い目を見る気がする。そもそも殿下が教室に戻っていなかったら、もはやなすすべ無しだ。
恐らく前世でもサボタージュなんてしたことがないのに、こっちの世界でしてしまうとは。多分、前世の方が罪は軽いはずなのに、大丈夫だろうか。
ようやく、動く気になった。それでもノロノロと教室に戻る。と、研究棟から出る廊下のところで、パトリシア様がやって来た。
「ヘンリエッタ様!」
「パトリシア様、どうしてこちらに?」
「殿下に教えていただいたのです。そろそろ一旦は戻らないといけないから呼び戻すよう言われましたの。体調が悪そうだと教師には言っていましたが、違いますわよね?」
どうやら殿下はうまく言ってくれたらしい。本当にできるお方だ。いや、そもそもわたくしに構わなければサボタージュすることもなかったのだから、どっちもどっちか。
「そうですわね。パトリシア様が1人で逃げてしまうものですから、わたくし恥ずかしかったですわ。それに加えて殿下に連行されて、色々聞かれてしまいましたし」
「う……」
「ええ、パトリシア様がヤキモチを妬いてくれるなんて初めてですもの。今回のことは多めに見て差し上げます……と言いたいところですが、流石に割に合っていませんわね」
「ヤキモチなんか妬いていませんわ!」
「そうなのですか? ではわたくしが辱めを受けたことに対する責任をとっていた頂かなくては」
「なっ」
パトリシア様はすでに涙目だ。うん、淑女の仮面がボロボロに剥がれている。
これだけでもいい意趣返しだけれど、今回はわたくしは完全な被害者なのでもう少し意地悪させてもらおう。
たまにしかない機会だし。
「そうですわねぇ。ではクラスメイトの皆様の前で、淑女らしからぬ行動をとったことに対する謝罪をしていただきましょうか」
「くっ……。ヘンリエッタ様、意地が悪いですわっ。あと、笑いが堪えられていませんわよ!」
あら、いつの間にか笑ってしまっていましたわ。わたくしもまだまだですわね。
「ふふふ、パトリシア様のそんなお姿を見れるなんて、意外と揶揄いがいがありますわね」
「意外とって、貴女いつもわたくしを揶揄って遊んでいるでしょう!」
「まあ、心外ですわ。わたくし、パトリシア様のことを敬愛しているのですよ。揶揄うだなんてそんな」
「あれが遊んでいないというのなら、貴女は悪女ですわ!」
「ひどいですわ、パトリシア様。せっかくお母様にパトリシア様が会いたがっているから、一緒に招待しても良いか交渉しようと思っていましたのに。そんなことを言われては、やめておきましょうかしら」
「うぐぅ……」
パトリシア様は首を垂れて悔しそうにしている。もう本当に可愛い。
嫉妬していたと認めたくはないけれど、自分も我が邸に来たいからすごく迷っているのが手に取るようにわかる。
パトリシア様がこちらを見ていないことを良いことにニヤニヤが抑えられない。確かにこれは悪女の名がふさわしいわね。
「くうぅ……! 認めますわ! わたくしはお二人が仲良くなるのにヤキモチを妬きましたの! だからわたくしも一緒に招待しなさい‼︎」
半ばヤケクソで叫ぶパトリシア様。羞恥心のあまり、瞳から一筋滴がこぼれ落ちた。
ああ、可愛い。こんなに可愛い姿を見たら世の男性は放っておかないわ。むしろ放っておく殿方は見る目がないわね。
殿下もパトリシア様のこの姿を見たら、捕まえたくなるはずなのに今姿がないのが残念だわ。
今回は抱き締めたりしたら、キャパオーバーで気絶しそうなので手を握った。
「よく出来ました。お母様にはわたくしから言っておきますわ。お母様もパトリシア様が大好きですもの。快諾してくれます」
「こ、これが姉力……ふん! 絶対ですわよ!」
うん、その言葉は聞かなかったことにしよう。




