お母様が会いたいそうです
落ち着いたところで、なぜかお母様が男性たちを退室させた。
振り返ったお母様はとてもいい笑顔をしている。なんだ?
「ところでもう1人のご令嬢がいたけれど、何がそんなにお気に召したのかしら?」
「お気に召しただなんて、何か含みがあるようにしか聞こえませんけれど?」
「含みといえばそうね。今まで他人といえばパトリシア様にべったりだったのだもの。どういう心境の変化かと思って」
お母様は楽しそうだ。確かにそうだ。なぜならば、前世の記憶の俄知識のせいで必要以上に他人と距離を縮めようと思わなかったから。
でもそれも間違いではなかったのかも知れない。メアリー様の言い方は、わたくしが悪役令嬢だったとも邪推できる。
最も、メアリー様からちゃんとしたお話を聞かないとはっきりしないのだ。近いうちに2人で話せるように時間を作らないと。
「ええ、やはり学園生活が始まったのが良かったのだと思いますわ。邸にいるよりは他人と関わる機会というものが、何倍にもありますもの」
「そう、それはいいことね。それじゃあ、今度我が家に招待しましょうか」
「はい?」
「彼女のことは聞いていますわ。キャンベル男爵令嬢の養女。魔力も膨大ではあるけれど、その能力が活かしきれていない。元々が平民だったのだから、コントロールがうまくいかないのは当然ですが、それを踏まえても不得手のようね」
わたくしが初耳の情報があるのですが。お母様その情報はどこで得たのだろう。
「それは初耳ですわ。それで、なんの関係があるのでしょうか?」
「まあ、彼女がへティにとって悪影響になるかは最終的にへティが判断することね。ええ、正直そこも気になるけれど」
「一番の目的は?」
「へティが久しぶりに、他人に興味を示したのよ! どんな子か気になるのはもちろん、挨拶したいじゃない」
「……」
お母様……なんというか、申し訳ないです。全くそんなそぶりなかったけれど、わたくしの引きこもり具合にかなり気を揉んでいたらしい。
「えっと、多分、萎縮してしまうと思うのでお手柔らかにしてあげてくださいね」
「わたくしを誰だと思っているのかしら? 任せなさい」
ウキウキしているお母様を止める術はわたくしにはない。それにメアリー様と話したいことは、パトリシア様がいると話すことができないので、正直そういう名目だとやりやすいだろう。ここは甘えよう。
「ではよろしくお願いします。メアリー様にはわたくしから説明しますわ」
◇◇◇
次の日。体調もすっかり回復したので、学園に登校する。メアリー様はまだ来ていないようだ。
「おはようございます、ヘンリエッタ様。体調はもう大丈夫ですの?」
「おはようございます、パトリシア様。ええ、お陰様で大丈夫ですわ。色々ありがとうございました」
「当然のことをしたまでですわ。アルフィー様とトミー様を落ち着かせるのは骨が折れましたけれど」
「兄弟愛が強くてすみません」
「……ところで、誰か探していたのかしら?」
「あ、そうなんです。メアリー様にお母様が会いたがっていると伝えようと思いまして」
え、パトリシア様が固まった。石のようになっている。
「ど、どうしました?」
「……なぜ?」
「どうやら、わたくしがパトリシア様以外の他人に興味を持ったのが嬉しいらしく、挨拶したいと」
「わたくし以外……」
プルプル震え始めている。本当にどうしたんだろう。だんだん顔が下がってきている。
「最近、わたくしはアメリア侯爵夫人に会えていないのに、メアリー様には会いたがっておられるのですね」
「いえ、パトリシア様。確かに入学してからは我が家にお招きできていませんが入学直前に会っているじゃないですか。今までと頻度は大差ありませんわ」
「そうではなく……」
言いづらそうにしているが、ここは聞かないと多分後で大変なことになる。
根気強く待っていると、泣きそうな表情でぽそりと言った。
「ヘンリエッタ様が遠くに行ってしまいそうですわ」




