お姉さま、心配ですわ
コンコンっ
ノックの音が聞こえて、入室を促す。そこで我慢の限界が訪れたのか、飛び込むようにお兄様とトミーが入ってきた。
後ろでパトリシア様も入ってくる。
「へティ、魔力暴走したと聞いたが、大丈夫なのか?」
「はい、少し魔力の欠乏でフラフラするくらいですわ」
安心させるように微笑んだが、なぜかわたくし以上に顔色が悪くなる2人。
「そんな……。姉上、まさか姉上が暴走させるなんて。誰に何をされたのですか? ちょっと息の根止めて来ます」
「トミー、落ち着きなさい。発言が物騒よ」
「姉上をこんな目に合わせたのです。相応の罰だと思いますが」
「……そんなこというなんて、お姉さまは悲しいわ。トミーは優しい子でしょう? わたくしの嫌がることなんてしないわよね?」
「うぐっ……。姉上の望みならば」
必殺いつもの上目遣いをすれば、トミーはどもってしまう。うん、わたくしはやりやすくてありがたいけれど、そろそろ慣れないとお姉さま心配。
そこで2人とも、見慣れない人がいることに気がついたようだ。
「おっと、失礼。ご令嬢がヘンリエッタに付き添ってくれたのかな?」
「は、はい。メアリー・キャンベルともうします」
「私はアルフィー。こっちは弟のトミーだ。妹に付き添ってくれてありがとう」
「そ、そんな。ヘンリエッタ様はわたくしを守ってくださったので」
あ、メアリー様、その言い方はまずいかも。
「なんと、何があったんですか! もしかして魔物が襲ってきたとか! 姉上、本当に怪我はないんですか?」
「え、えっと」
あまりのトミーの勢いに、メアリー様は引いてしまっている。トミーの表情が鬼気迫っているので怖いと思う。
「トミー様、落ち着いてください。ヘンリエッタ様にお怪我があれば先に報告します。それから、学園に魔物がくることはほとんどありませんのよ」
「では、どういうことですか」
「とりあえず緊急を要することではありません。見てごらんなさい、ヘンリエッタ様が限界を迎えていますわ。心配のあまり本人が見えていないのでは意味がありません」
パトリシア様、ありがとう。声に出して伝えたいが、確かに限界を迎えたらしくわたくしの意識は闇に沈んでいった。
◇◇◇
目が覚めると、自室のベッドにいた。眠ったおかげで回復したのか、体は軽い。
起き上がると、部屋にいたらしいエマが声をかけてきた。
「お嬢様、お目覚めですね。お水を飲みますか?」
「ええ、ありがとう。ところで今は何時かしら?」
「もうすぐ夕食のお時間になります」
冷たいお水を飲み干す。それを見届けて、エマはお父様に報告するために退室した。
家族に心配をかけてしまった。この後も騒がしくなりそうで嫌だなぁ。
いや、トミーのこともあったし、意外と冷静でいてくれるかもしれない。そうであってほしい。
そんなことをつらつら考えていたら、エマが戻ってきた。後ろには家族が勢揃いだ。
「へティ、具合はどうだい?」
「はい、お父様。寝たおかげか問題ありませんわ」
「そうか、良かった」
あ、冷静だ。良かった。
「パトリシア嬢が説明してくれたから大体のことは把握しているわ。随分派手に動いたのね」
「あはは、つい」
パトリシア様、わざわざ家族にまで説明してくれて嬉しい。まあ、お兄様とトミーが逃さなかったとかもありそうだけれど。
理由を聞いたせいだろうか、トミーは落ち込んでいるようだ。
「僕、姉上を守るために学園に入学したのに。まさか姉上に守られていたなんて知りませんでした。不甲斐ないです」
「ふふ、トミーはわたくしの大切な‘’弟‘’ですもの。愚弄されて黙っているわけがありませんわ」
トミーは不服そうだ。‘’弟‘’と強調したからだと思うけれど、気にしない。
「ヘンリエッタ、お前が望むのならオズボーン伯爵家らに制裁を加えるが?」
お父様、目が笑っていないです。ええ、愛称呼びでない時点で本気度が伺えますけれども。
「いいえ、望みませんわ。学園はあくまで平等。それにわたくし、だいぶギャフンと言わせたので満足してますの」
そういうと、お父様は今度こそ笑ってくれた。