逃げます
お昼休み。殿下に話しかけられる前にパトリシア様を急かして食堂へ逃げた。
本当に、今は対面したくない。怖い。
「ヘンリエッタ様、今日はトミー様を待たなくてよろしいんですの?」
「後で謝りますわ。いつも同じ席に座っていますし、合流はできますもの」
食堂は多くの生徒で賑わっている。基本は食堂で食事を摂る生徒が多い。席は十分あるが窓辺など人気席もあるので、争奪戦が起きたりしている。
わたくしたちは端の方の目立たないところを占領している。単純にわたくしたちは割と目立つので人目を避けた結果だ。
ちなみに昼食のメンバーはわたくし、パトリシア様、トミー、お兄様だ。お兄様は生徒会の仕事があったりすると来ないこともあるけれど。
昔からのメンバーなので安心感がある。たまにトミーが爆弾を投げ込んでくるのがいただけないけれど、それすらも今なら安心材料になりそう。
ただ、これは外れて欲しいけれど近々殿下がメンバーに加わりそうな気がしてしまう。
そしてそれに引っ張られてバーナード様も来そう。なんて高貴な空間。壁となってみるのなら眼福だけれど、当事者になるのはごめん被りたい。
とにかく、今は美味しいご飯食べて現実逃避しよう。
パトリシア様と食事を頼むために列へ並ぶ。
食事は3種類から選ぶことになっている。この3種類はメインが違う。
お肉、魚、その他だ。お肉、お魚は日によって種類や部位が違う。
その他というのは、いろいろな料理が出てくる。グラタンだったり、パイだったり。
日替わりなので飽きることがなく、多くの生徒が貴族ということもあってとても美味しい。
わたくしは白身魚のムニエル。パトリシア様は子羊のテリーヌにした。もう、匂いだけで美味しい。
食事をもらい、席についたところでお兄様とトミーが入ってくるのが見えた。
2人も食事をもらって、席にやってきた。
「姉上、今日はどうして先に行ってしまったのですか? Aクラスに行ったらもういないと聞いて驚きましたよ」
「ごめんなさい、トミー。お腹が空いてしまって我慢できなかったのよ」
本当の理由なんて話せないので、適当な言い訳を使う。
トミーは納得できないのか、少し眉が寄っている。
「今日はへティのクラスは魔術の実践だったのだろう? それならお腹が空いてしまっても仕方がない。トミー許してやれ」
「むう……。仕方ないですね」
お兄様、グッジョブ! ありがとう。
4人で食事を始める。楽しく、殿下とのやりとりを忘れることができた。
◇◇◇
放課後。パトリシア様と勉強をしようという話になり、図書室に向かうことにした。
トミーも誘ったが、クラスメイトとの約束があるらしい。一瞬こちらを優先しようとしたので、丁重にお断りした。
血涙を流していたが、必殺の上目遣いでお願いしたら諦めた。ちなみにクラスメイトに肩を叩かれていたので、関係は良好らしい。
姉としては嬉しい限りだ。……シスコンがクラスに浸透していることは喜ぶべきなのだろうか。
ええ、だからパトリシア様、そんな顔で見ないでください。
と思っていたら、パトリシア様が立ち止まった。窓の外を見ている。
わたくしも釣られて見ると、ピンクの頭が見えた。ボブということはもしかして。
そしてその周りにいるのは最近、悪い意味で目立ち始めている令嬢たちだ。
そこから導き出される答えに冷や汗をかく。近くには見事な噴水。嫌な予感しかしない。
パトリシア様と顔を見合わせて、同時に頷く。
この時ばかりは淑女らしさをかなぐり捨てて、走った。どうか、間に合ってほしいと願いながら。




