落ちそうになりました
その日は結局うまく玉を作ることができなかった。
途中までいい線行っていたのだけれど、なぜかパトリシア様と同じタイミングでコントロールがズレてしまい、パトリシア様の風とわたくしの水が混ざり合って2人ともずぶ濡れになってしまったのだ。
他の人たちに被害が出なかったのが不幸中の幸いだった。着替えを持っていなかったので、お兄様かトミーに風魔術で乾かして貰おうかと思ったけれど殿下が火魔術で乾かしてくれた。
「本当に繊細な魔術ですね……。普通火魔術って燃やすことに特化しているから乾かすためになどかなり技術のいることだと思うのですが」
「ヘンリエッタ嬢に褒められるとは……。まあ、私は幼い頃から魔物討伐もしていたからね。魔術の扱いには自信があるよ」
しまった! つい本音が漏れた。いや、だって本当にすごいことだから。
前世の記憶が戻ってから魔術がこの世界にあるんだと厨二心というか、好奇心が抑えられなくて邸の書庫の魔術関連の本を読み漁っていたからね。
知識はある方じゃなかろうか、多分。
「パトリシア様も申し訳ありませんでした」
なんて振り向いたら、なんか簾状態になってる⁉︎
あまりのジメジメ具合にキノコ生えそう。じゃなくて!
「パトリシア様⁉︎ どこか具合が悪いのですか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。さあ、次の授業が始まりますし戻りましょう」
いや、その状態で言われてもなんの説得力もないですからね。
しょうがない。
パトリシア様の肩を支える。
「殿下、わたくしパトリシア様を保健室に連れて行きます。教師に説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
その言葉に殿下は目を見開いて驚いていた。うん、正直殿下に頼み事するなんて不敬だと思うけれど、ここ学園だし周りには誰もいないし仕方ない。
殿下が驚いたのは一瞬で、その後見惚れるような笑顔で了承してくれた。
「ああ、しっかり伝えておこう。パトリシア嬢も無理はしないように」
そう言って殿下は立ち去った。なんだろう、お花が舞っている気がするのは気のせいだろうか。
深く考えるのをやめる。パトリシア様は大丈夫と言っていたけれど、もはや無視して連れていく。
保健室はちょうど無人だった。別に怪我や病気できたわけではないからいいでしょう。
「さあ、パトリシア様、椅子に座ってください」
「ヘンリエッタ様は本当に強引ですわ……」
本当ならお茶とか飲んでリラックスしたいところだけれど、流石に無人の保健室では無理だ。
向かい合わせに座り、パトリシア様の手を握る。
「一体どうされたのですか? そんなパトリシア様をみるの、公爵邸に初めてお邪魔した時以来ですわ」
「その話はやめて頂戴。恥ずかしいわ」
そう言いつつも、手は離そうとしない。
辛抱強く待っていると、ぽつぽつ話してくれた。
「あの時、またキャンベル男爵令嬢の悪口が聞こえてきましたの。その方達だって上手く出来ていないのに、人を蹴り落とそうとしているものだからつい苛立ってしまって」
「そうだったのですね」
「そうしたら、コントロールできなくなってしまって、結果ヘンリエッタ様にも迷惑をかけたでしょう? 公爵令嬢ともあろうにこんなことで気を取られてしまうなんて」
なるほど、自分の不甲斐なさに落ち込んでたのか。最近完璧なパトリシア様に対する尊敬の感情が周りから増えていたのもあって、その無意識の期待に応えられなかったから余計に悔しいのだろう。
「けれど、それで悪口は止められたのではないでしょうか?」
あの時、わたくしたちが濡れたことに周りは大騒ぎだった。それこそわたくしたち以上に悲壮な表情をしていた人もいた。(なんで? とは思っている)
多分その悪い空気は霧散できたことだろう。
「ふふ、ということはわたくしとパトリシア様でいじめを止めることができたのですね。体を張って助ける。まさに貴族の義務ですわ」
そういうと、パトリシア様は驚いた後、嬉しそうに笑った。
「ヘンリエッタ様は、本当に素敵ね」
そう言われて思わず落ちそうになったのは内緒だ。
なんだか恋愛になかなか発展せず申し訳ないです。
まだ恋愛が本格化するのは先になりそうですが、お付き合いのほどよろしくお願いします。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくだされば広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をポチッとお願いします!
いいね、ブクマもとても嬉しいです。




