罰を与えます
必死にお兄様を抱きしめていたが、お兄様がギブと言わんばかりに腕を叩いてきた。
しかし油断はできないので、軽く緩めるに留める。お兄様はなんとか顔を動かし、呼吸を確保したようだ。
「なななななっ‼︎ へ、へティっ何してるんだ⁉︎」
……なんだかトミーを抱きしめた時も同じ反応をしていた気がする。やはり兄弟だな。
どこか冷静になってきた頭でそう思いながら、自然と上目遣いになっているお兄様ににっこり微笑んだ。
「落ち着いてくださいな」
「いや、この状態で落ち着くも何もないだろう。離してくれないか」
「まあ、お兄様が恐ろしいことを言うものですから、手っ取り早く口を塞ぐにはこれがいいと思いまして。それに痛くはないでしょう?」
「た、確かに柔らか……じゃなくて‼︎ いくら兄妹でもこれは……」
うん、それは何より。
「お兄様、ご自分が何を言ったのか理解しておられますか? ちょっと、いやだいぶ危ない発言をしておられましたわ。それを実行されましたら、おそらく周りからも痛い目で見られてしまうでしょう」
「しかし」
「ですから、行動で示してほしいと言うのなら、とりあえずこの状況に耐えてくださいませ」
「繋がりが見えないのだが」
わたくしだって繋がっているとは思わない。ただ、お兄様の思考を変えるために強引な手段をとっているのにすぎないのだから。
お兄様はなんとか少しでも離れようとしているのだが、少しでも動けばさらにわたくしの胸を意識してしまうのか、ついには変な体勢で固まってしまった。
うん、本当にいい罰かもしれない。多分これ、解放したら後で体が痛くなるやつだ。
ただし、これはお兄様のような真面目が服を着て歩いている人にしか効かないが。
「とにかく、行動で示すのならば今はわたくしがしたいようにすることを容認するべきですわ。お兄様に拒否権は無くてよ?」
「う……は、はい」
ようやく大人しくなったので、さらに拘束を緩くして片手はお兄様の髪を撫でる。
男の人の髪を触るなんてトミーくらいしかいなかった。トミーはふわふわしているのに対し、お兄様は絹のように滑らかな触り心地だ。正直、わたくしのように念入りに手入れをしていないのにこの手触りは羨ましい。
そうして十分に堪能した後、お兄様を解放した。きちんと体が痛くなってきたであろうタイミングで。案の定、油の切れたロボットのようにぎこちない動きをしている。
「まあ、今回はこのくらいにしてあげましょう」
「ふぐっ。あ、ちょ、動けな……」
「ええ、ええ。お兄様が変な抵抗をするからですわ。いい罰でしょう」
お兄様は言い返す気力もないのか、やっとの思いで真っ直ぐ立つことができたようだ。
シュンとした様子で、こちらをチラチラ見ている。
「お兄様もこれに懲りたら、余計なことはやめてくださいね」
「ああ、本当にすまない」
お兄様は本当に反省したようだ。すぐに自分の非を認めて謝ることができるのは美点だ。その後の思考が誉められたものじゃなかったけれど、無事軌道修正できたようでホッとする。
「しかし、今回のことはお母様に報告させていただきますね」
「え」
「お母様に言われておりますの。こう言うことがあったなら報告しなさいと。大丈夫ですわ。わたくしがやり返したことも言って、お説教が長くならないように配慮して差し上げます」
「うぅ」
「わたくしは優しいですからね。この程度で済ますことを感謝してほしいくらいですわ」
恩着せがましく言う。もちろん、本当にこれ以上お説教がないようには言うつもりだけれど、甘くして後悔するくらいならば厳しくしよう。
お兄様は首垂れつつも、文句は言わない。
「ああ、へティ。ありがとう。へティの優しさに応えられるように頑張るからな」
最後にはこう言ってくれたので、やはりお兄様が大好きだ。
今は言わないけどね。