パトリシア様は最高です
優雅にケーキを食しながら、学園のことについて話す。
「そう言えばトミー様は飛び級として入学するおつもりですの?」
「ええ、わたくし以上に頑張っていますわ。きっと学園で初めての飛び級入学者になりそうで鼻が高いですわ」
「本当に凄いですわ。それよりも気になるのが、ここ1年くらいで随分軟派な雰囲気になった気がするのですけれど」
「本人曰く、真面目系だとお兄様とキャラが被るからだそうですわ」
「どういうことですの……」
パトリシア様は理解出来ないと呆れたようだが、わたくしは知っている。
口止めされているので言えないのが残念だ。きっとパトリシア様は家族愛凄いとなるのでしょうけれど。
お兄様はここ数年でメキメキ身長が伸びて、逞しくなった。お父様を抜かせそうだと喜んでいたくらいだ。
ちなみにお父様はこの世の終わりのような顔をしていて思わず笑ってしまった。
そんなお兄様は、次期侯爵家当主として真面目に勉強している。もちろん、その他も手を抜かずに頑張っているのでその姿勢から女子人気はかなり高いそうだ。
なので兄弟でキャラが被ると何かと比較される。トミーも真面目な子に育っていたので、人によってはトミーを下げてお兄様に取り入ろうとする物もいた。そのことについて、トミーはお兄様ラブなので気にしていなかったようだけれど、お兄様が怒ってしまってなかなか大変だったのだ。
ええ、普段優しい人ほど怒ると怖いとはこの事でしたよ。本人だけでなく親まで巻き込んで再教育していましたもの。
ある意味お兄様がいればスタンホープ家は安泰ですわ。
トミーも不用意にお兄様を怒らせてはいけないと、考えた末がキャラ変だ。そもそもキャラが違えば以前よりは比較されることが無くなる。
わたくしもなんか方向性違くない? とは思ったけれど口を突っ込むのはやめた。正直に言うとタイプの違うイケメンを堪能したかったと言う邪な考えから。
こっちに関わりがなければ目の保養にしたい。関わられると対処に困るのだけれど、欲に負けてしまった。
時たま困る事はあれど、お陰様でとても素晴らしい日々を送っていた。
まあ、練習と称してこちらにアピールしてくるトミーはなかなか鬼門だった。あれは本気だった。
お母様がいてくれなければどうなっていたか。
「ヘンリエッタ様は鈍感なのか鋭いのか分からなくなりますわ」
「ふふ、それを知るのはわたくしだけですわ」
「はぁ……。なぜわたくしは友達になっているのかしら……」
思わずと言った言葉にパトリシア様は口元押さえる。
時すでに遅し。バッチリ聞いてしまったわたくしは、幸せのあまり空にまで飛んでいきそうな心地になる。
「パトリシアさまぁっ! 嬉しいです! あぁ、今日はなんて素晴らしい日なのでしょう! こうなったら記念に一曲踊りませんか⁉︎」
「何言ってるの⁉︎ どうして踊ると言う発想になるの!」
「人は古来から踊る事で喜怒哀楽を表現したと言いますし、わたくしの今のこの気持ちは踊る事でしか表現出来ないからですわ‼︎」
「全く、これっぽっちも意味がわかりません! 踊りたいなら1人で踊りなさい!」
「そんな! この気持ちにさせたパトリシア様が責任とって付き合うべきではありませんの⁉︎」
「何の責任ですか! わたくしは付き合いませんわ!」
「ではでは、ケーキを食べさせ合いましょう! それならいいですわよね?」
「何を持って良いのかわかりませんわ。どう言う思考回路でそうなりましたの? 恋人でもないしやりません」
「では! いまから恋人になれば良いのでは⁉︎」
「貴女もしかしてパニックになってるわね⁉︎ ちょっと落ち着きなさい!」
暴走したわたくしに扇子でチョップを喰らわせ、無理やりこの場を納めたパトリシア様。
なんとも素晴らしい攻撃だった。お陰で星が飛んでいたけれど。
素面に戻ったあと、平謝りすることとなった。




