力強い味方がいます
お母様の言葉に思わず体が跳ねる。
「……お母様達はいつから気がついておられたのですか」
「そうねぇ、魔力暴走の件があった後かしらね。その後から態度がまるで違うものになっていたもの」
「そんなに前から」
「でも本人が言ってきたのは割と最近よ? 初めてのお茶会の後、あの子が直談判していたのよ」
「直談判?」
「ええ、へティの心を変えることができたら、自分がお嫁さんに貰ってもいいかって」
それは知らなかった。正直、雛が親鳥についていくようなものだと思っていた。
そうか、本気だったのか。
「アレキサンダーとアルフィーは喜んでいたわよ? 義弟とはいえ、血筋は近すぎないし問題ないもの」
「味方がいない……」
「あらやだ。わたくしがいるでしょう?」
下がっていた顔を上げる。お母様は慈愛に満ちた表情で笑っていた。
「どうやらへティの結婚したくないという気持ちは本当のようだったし、無理強いは良くないでしょう? 自分が後悔しない道を歩んでほしいもの」
「そうですか」
「ええ、それにパトリシア嬢からも聞いていたのでしょう? へティとパトリシア嬢は筆頭婚約者候補だもの。仮に殿下の婚約者とならなくても、釣書が山のように送られてくるわ」
「スタンホープ家は歴史長いですし、領地も安定していますからね。縁を結びたいものはいるでしょう」
「そうね。それとへティは美しいもの。自分のものにしたい男はわんさかいるわ」
「お父様とお母様の子供ですから当然です」
「ふふ、そう言われて悪い気はしないわね」
わたくしは大きくため息を吐いた。
「ということはわたくしは将来、必ず誰かと結婚しなければならないと」
「まあ、結婚しないと今のような状態が続くわね。でももちろん、必ずではないわ。対処方法を学べば躱せるもの」
「なぜか光明に感じないのですが」
「わかっているわね。それはとても難しいことだもの。特に相手が上の立場だとね。それに好意を跳ね返すのは気持ち的にも辛いものだわ」
「……」
お母様は紅茶を一口飲む。
「だからこそアレキサンダーとアルフィーは貴女の考えが変わってくれることを願っている。そして……それもヘティは分かっているから今が辛いのでしょう?」
お母様の言葉の通りだ。
だからこそ気がつかないフリをしていた。そうすれば踏み込んで来なくなるから。
優しさすら跳ね除けて、わたくしは自分勝手に振る舞っている。
「けれどね、ヘティ」
お母様は真剣な眼差しでこちらを見ている。
「その優しさ全てを受け入れる必要は無いのよ」
意外な言葉に声が出ない。
「確かに貴女の為に動いているのでしょう。けれど、貴女自身がそれを望んでいるのかしら? ヘティはちゃんと将来を見据えている。結婚しないならしないなりに、我が家に貢献しようとしてる。それでも貴女の考えを変えようとするのは傲慢でもあるのよ」
「……あ」
「なにがヘティにとっての幸せか。それを決めるのはヘティ自身。いくら家族が大切で、想いあっていたとしてもそこを間違えてはダメよ」
気がついたら頬が濡れていた。
お母様がハンカチを差し出してくれる。
「アレキサンダー達にはわたくしが上手く言っておきましょう。あと、トミーにもね。あまり積極的なアピールは逆効果よって」
「ふふっ。わたくしには"押してダメなら引いてみろ"ですか?」
「今のところは、じゃない? ヘティだって変われるものなら変わりたいようだし」
そう言ってウィンクするお母様。
お母様には本当に敵わない。わたくしの味方になってくれて嬉しい。
「ありがとうございます。お母様」
「可愛い娘のためだもの。当然のことよ」
そう笑い合った。
頼もしい味方を得て、自分が幸せになる為に頑張ろうと思った。
今回で第2章完結です!
次回からいよいよ恋愛が本格化する筈ですのでよろしくお願いします!
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