お母様を味方にしたいです
「そうやってすぐに自分の悪いところを認められるのはへティの美点ね」
「わたくしはまだまだ未熟者ですから」
昂った気持ちを鎮めるために紅茶を飲む。淹れてから少し時間が経っていて、喉が乾いたこともあって飲み切った。
侍女は遠くに控えているので、自分でティーポットからカップに注ぐ。
「お母様、無理を承知で言いますが、次回のお茶会は欠席できないでしょうか?」
「可愛いへティの頼みだもの。……と言いたいところだけれどこればかりはねぇ」
「そうですよね。言ってみただけです」
「それに」
そこでお母様がこちらに顔を寄せる。悪戯っぽい笑顔で言った。
「今欠席しようものなら、逆に殿下の興味を引くことになると思うわよ? 余計にへティの望まない展開になりそうね。どちらにせよ、これからはきっと殿下が寄って来るのでしょうけれど」
わたくしにとっては事実上の死刑宣告である。
もう取り繕えず、テーブルに突っ伏す。お母様は堪えきれないと笑っている。くそぅ、他人事だと思って。
「あはは、面白いわねぇ。フレディ殿下との縁なんて皆がこぞって求めるものでしょうに。まさか娘が嫌がるとは思わなかったわ」
「…………不服ですけれど、殿下が大層魅力的な御仁であることは認めますわ」
「あら、じゃあ何が嫌なのかしら? 既に心に決めた人がいるわけでもないでしょうに」
笑いを引っ込めて聞いてくる。先ほどまで涙さえ浮かべていたのに、これが淑女か。
さて、どうしよう。まさか前世の記憶で、見た目がいい男性ほど警戒してしまうとは言えないし。
お母様だから納得してくれそうな気もするけれど、万が一医者に見せようとかなったら立ち直れる気がしない。
「魅力的だから伴侶になりたいとわたくしは考えませんわ。むしろ恐れ多いと思ってしまいますの」
「へティは十分釣り合えると思うのだけれど?」
「家柄でしたらそうでしょうが、気概が足りませんの。殿下の伴侶は将来の王妃となることが、ほぼ決まっています。王となる伴侶を支え、国民を導く光とならなければなりません。わたくしにはそこまでの責任を持つ器がありませんわ。正直に言って力不足です」
「…………その考えが既にできる時点で、器としては十分なのだけどね」
お母様の呟きは聞きれなかった。しかし気を取り直すように首を振った。
「殿下はまだ立太子はしていないけれど。確かにこのまま行けば、立太子されるでしょうね。では王妃ではなかったらいいのかしら? ここのように領地を持っていることがほとんどだけれど、王妃よりは規模が小さいわよ?」
「……そうですね。わたくしも貴族の娘。由緒正しきスタンホープ家の長女ですもの。お父様の命令とあればどこへなりと嫁ぐ心算ですわ」
「アレキサンダーはへティが好きになった人と結婚してほしいみたいよ?」
「現在スタンホープ家は、懇意になりたい家はいないのですか?」
「いるにはいるけれど、婚姻関係はいないかしら。年齢の釣り合いが取れていないし、性別が合ってなかったりで」
「そうですか」
逆にいて欲しかった。そのほうが楽なのに。
「ところで、それが本当の理由ではないでしょう?」
突然爆弾を投下してきた。やはりお母様にはごまかしが効かない。
ここは真実を織り交ぜた嘘をつく方がボロが出なくていい。
「夢を見ましたの。大きくなったわたくしは恋に夢中になっていましたわ。けれど、ひどい裏切りに遭ってしまいました。夢のこととは言え、あまりにも現実味が強くて恐ろしいのですわ」
それでもお母様は追求を止めない。ここを乗り切ればお母様は味方になってくれるのだろうか。
「それなら信頼できる子なら良いのではなくて? いるじゃないの、信頼を築いてきた子が」
それは認めたくなかった。だから絶対に、不可侵の線を引いたのに。
「気がついているんでしょう? 殿下以外にも貴女を異性として気にしている子がいるということを」




