望まないエンカウントです
とりあえず当たり障りない会話だ。近づき過ぎても、離れ過ぎてもいけない。
「ええ、本当に美しいですわ」
「それは良かったよ。雰囲気も大事だと思って、お茶会が決まると特に手入れに力を入れて貰っているんだ」
「植物には心を穏やかにする作用もあると聞きますし、素晴らしいですわ」
本当かどうかはさておき、会場のセッティングにも噛んでいるとしたら殿下多忙すぎるのでは? と思ったが、深追いしても面倒なだけなので同意するに留める。
それにしても淡い色合いのお花が多い中で、殿下の色彩は強烈で目を惹く。存在感が際立っていて、無意識だと目が離せなくなりそうで気を引き締めた。
というよりそろそろ戻ってくれないかな。一緒に戻りたくないけれど先に戻ろうものならエスコートするのだろう。それは正しいことかもしれないけれど、正直目立つこと間違いなしだ。ごめん被りたい。
でもお兄様達が心配するといけないからそろそろ戻りたいんだけれど。なんとか先に殿下に戻って頂かなければ。
なんて考えを巡らせていると、突然旋風が吹いてお花を巻き上げた。
「きゃ⁉︎」
「ヘンリエッタ嬢!」
風の強さに目が開けられない。しかし、数秒で風は収まった、ゆっくり目を開けると花びらが舞っている。
視界の先には驚いた表情の殿下。
芸術品がここに。
並のご令嬢であればあまりの光景に失神してしまうかもしれない。それほどまでに美しかった。
「びっくりしましたわ。殿下、お怪我はありませんか?」
「……」
「殿下?」
わたくしの呼びかけにハッとした様子で視線を彷徨わせた後、誤魔化すように咳払いをした。
「私は大丈夫だよ、ヘンリエッタ嬢は大丈夫かな?」
「ええ、ご心配していただき感謝いたしますわ。それより会場の方でも今のような風があれば怪我人が出ているかもしれません」
「そ、そうだな。では戻ろうか」
わたくしに手を差し出す殿下。このまま一人で戻ってもらいたいのだけど流石に今は諦めるべきか。
その時、わたくしを呼ぶ声が聞こえた。姿を現したのは。
「姉上! 大丈夫ですか?」
「トミー! そちらでも旋風があったのかしら?」
「はい、幸い怪我人はいませんがテーブルが倒れたりグラスが割れたりしています」
「そうなのですね。殿下、わたくしのことは気にせずお戻りください」
「……ああ、ではそうさせてもらおう。すまない」
「お気になさらないでください」
むしろ望んでいたからな‼︎
トミーが来てくれて本当に良かった。
殿下はすぐに戻ってくれた。
「姉上、髪に花びらが付いていますよ」
「あら本当?」
適当に取ろうとするとトミーに手を握られて、頭に手を伸ばしてきた。
花びらを取ってくれたと思ったら、その花びらにキスをしている。
うわっなんて眼福。
「花びらは姉上のことが好きみたいですね。いつか花に攫われないように僕が見張っておかないと」
「まあ、上手ね。わたくしは家族が大好きですもの。離れたりしないわ」
そんなことを言いながら、わたくしにはある予感が頭を占めていた。
(風が巻き起こった時の殿下の表情。それからわたくしが殿下を見た時の光景。……もしかしてわたくしと同じことが殿下の方でも起こっていたりして)
そうしたら厄介だ。自分で言うのもアレだがわたくしも見た目が整っている。
でも、今集まっているご令嬢も可愛らしい方々ばかりだ。自意識過剰かもしれない。そうであってくれ。
そうでなければ今までの努力が水の泡だ。
お願いします、神様。
もはや神頼みにすがり始めているわたくしを、トミーが複雑そうな表情で見ていることには流石に気がつくことができなかった。
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