面倒なことになってる気がします
「パトリシア様、ご機嫌よう」
「ヘンリエッタ様、ご機嫌よう。相変わらずスタンホープ家は仲がよろしいですわね」
パトリシア様がやってきたので挨拶する。扇をぱらりと広げて口元を隠す仕草は優美だ。
「貴女もご兄弟とばかりいるのではなくて他の方と交流したらどうです?」
「え? パトリシア様と交流してるじゃないですか」
「いえ、そうではなく……」
「他の方と交流したらパトリシア様との時間が減ってしまいますもの。寂しいですわ」
「っ」
パトリシア様の頬から耳まで真っ赤に染まる。自分でも直球だと思うけれど、他の人とも積極的に交流したいわけではないし、ちょうどいい。
「あ、でもそれでパトリシア様の邪魔をしたら悪いですわね。そう言うことでしたら、わたくしは一旦離れますわ」
「う……べ、別に離れる必要ありませんわ。……わたくしだって寂しいですもの……」
最後の方はボソボソ言っていたが、聞き取れた。いや、根性で聞き取った。思わず顔がにやけてしまう。
恥ずかしさでこちらを睨んでいるが、全く怖くない。というか可愛い。抱きしめたい。怒られるからやらないけれども。
「僕も姉上と離れるの寂しいので、他に行かないでくださいね」
そんなわたくし達の間にトミーが入ってくる。ついでにわたくしの髪を掬い上げてキスを落とす。
「まあ、トミーったら家でも一緒にいれるのに、可愛いですわね」
ニコニコ笑うと、パトリシア様がコソコソ話してきた。
「……ヘンリエッタ様、貴女いい加減に距離感がおかしいことを自覚しなさいな。絶対にその行動は計算されたものです」
「ええ、トミーは頭がいいですし、自分をどのように見せるか計算してるでしょう。そんなところも可愛いですねぇ。昔の姿を知っている身としては嬉しいことですわ」
「……そのうち痛い目をみても知りませんわよ」
なんとなく、なんとなくだがパトリシア様が言いたいことはわかる。
最近邸の者、家族も同じような表情をしている。でもわたくしは認めない。認めないという態度を出し、姉であるという態度を崩さない。
それは今後のためだ。あまりにも自己中な考え。可能性を否定できないから、自分を守るために拒絶する。
そのうち距離を取られても仕方がない。そうなるように仕向ける。それがわたくしの選んだ道だ。
パトリシア様に返事をせずににっこり笑う。もう何も言われなかった。
お茶会は恙無く進んでいく。途中パトリシア様が次期宰相に呼ばれ、会話している。
わたくしはお花を摘みに行くと席を離れた。終わった後もパトリシア様のそばに戻らないで、庭園を眺めた。
「ここは本当に綺麗ね……」
深呼吸すると甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。邸の庭園も見事だが、王城は群を抜いていた。
ちょこちょこ抜けて見に行くのがルーティンと化している。別にそのために開放しているので誰かに見つかったとしても咎められる事はない。一応護衛も配置されているし。
お花の香りを堪能していると、誰かの足音が聞こえた。段々と近づいてくる。
わたくし以外に抜ける人がいるなんてどんな物好きだと、自分を完全に棚上げしながら振り返った。
そこにいた人物にわたくしは驚いてしまう。
「やあ、いつも抜け出しているけれどそんなにここを気に入ってくれたのかな?」
柔和な表情を浮かべながら赤い髪を風で揺らしている。
フレディ殿下がそこにいた。
わたくしは心の中でため息を突く。何故か最近、殿下に絡まれることが増えたのはやはり気のせいではない。
でなれければ、主催者が会場を離れる事はない。
なんだか面倒なことになってきている気がすると心の中で嘆いた。




