グレーな冗談はお控えくださいませ
そしてお茶会当日。なんだかんだ近づいてくるとドキドキする。
諸々の理由で嫌なだけで、パーティ自体は楽しい。まだわたくし達が子供なのも相まって、そこまで腹黒いやり取りがないのも理由だろう。
朝早くからの準備ももう慣れた……と言いたいが、全く慣れていない。朝からお風呂に入り、香油を体や髪に塗り、ドレスを着て、髪型を整える。もう少し年齢を重ねたらコルセットや化粧も入るのだから考えるだけで恐ろしい。
準備が終わり、お兄様とトミーと集合する。ちなみにお兄様は15歳になり、今年から魔術学園に入学した。お兄様は邸から学園がさほど遠くなく、馬車も用意ができるので邸から通っている。とはいえ、以前より顔を合わせる時間が少なくなってしまったので寂しい。
「お兄様、トミー、お待たせしました。いきましょうか」
「ああ、行こう」
「はい」
3人で馬車に乗り込む。久しぶりの兄弟の時間ということで話が弾んだ。
「お兄様、学園はどのような感じですか?」
「うん、とても楽しいよ。今まで関わり合いがなかった人たちとも関われるし、何より覚えられる魔術がぐんと増えたよ」
「いいですわね。わたくしも早く通ってみたいですわ」
「はは、でも大変だぞ? やることはずっと多いし、いざこざも全くないわけじゃないからな」
「でも、お兄様の様子を見てると充実していることが伝わってきますもの。楽しみですわ」
「……」
「あら、トミーどうしたのです?」
トミーが黙っているので声をかけると、少し寂しそうに言われた。
「兄上と姉上はいいですね。僕は2人が帰ってくるのを待たなきゃいけないんですよ? 年が離れているのがこんなに惜しいことはありませんよ」
「まあ、トミー。配慮が足りなくてごめんなさいね」
「それならトミー、飛び級を目指してみたらどうだ?」
「「飛び級?」」
「ああ、近年陛下のご尽力もあって学園の敷居を下げているんだ。平民の者も入学できるように特待生制度もできたし、そもそも貴族がみんなお金があるわけじゃないからそういった制度も充実している。後は僕は通いだけれど、遠い者のために寮暮らしもできるようにしているからな。それと共に優秀な人材の早期育成のために15歳未満でも条件を満たせば入学資格が得られるんだ。ただ、狭き門でまだそういった者はいないけどな」
わたくしが前世の記憶が戻った頃はまだそんなに制度は充実していなかったはず。それを5年程度で整備するなんて……。
「陛下は賢王であらせられますわね。トミーは優秀ですもの。きっと飛び級での入学も夢ではありませんわ」
「……姉上は僕と学園に行きたいですか?」
「ええ、嬉しいですわ」
そういうとトミーはわたくしの隣に移動してきた。危ないと言おうとするが――
「では、僕、頑張ります。応援してくれますね?」
わたくしの手を取り、上目遣いで言うトミー。
だんだん成長期に入り始めたのか、身長差はそれほどない。それでも至近距離で上目遣いで来られたら目が潰れてしまう。
なんだろう、うちの弟の愛嬌に磨きが掛かっている件について。
「も、もちろんですわ。わたくしも出来ることがあれば協力するわ!」
手を握り返し、力強く言う。トミーも満足げに頷いた。
「はい、茶番はそこまでにして。トミー、戻りなさい」
「羨ましがらなくていいんですよ、兄上」
「違うわ! 距離が近すぎるんだ!」
「相手を落とすにはこう言うのが大事かと」
「……お前、そのうち国家転覆とか企てても違和感ないな」
「大切な人がいるのにそんなことしませんよ。……その人が幸せではなければ考えますが」
「……不安なんだが」
「え? お2人とも冗談ですわよね? ちょっと発言がグレーですわ。いけません」
なんだか空気がおかしな方向になっている気がして、慌てて言う。
お兄様は肩をすくめ、トミーはにっこりと笑う。冗談のはずだが、一抹の不安が拭えなかった。




