なんだか望まない方向に行ってる気がします
ディグビー公爵家にお茶会に誘われてから、パトリシア様とちょくちょく会うようになった。時に公爵家へ行き、逆に招待したり。徐々にわたくし達の仲は深まっていった。
もちろん、その間にパトリシア様の態度や、わたくしの緩さで喧嘩したり、仲直りしたりを繰り返していた。そうしていく中で、パトリシア様は少しずつ素直な言葉を出せるようになっていった。(嬉しさのあまり抱きついて再び突き放されるまでがワンセット)
所作がとても綺麗なパトリシア様と一緒にいることで、わたくしの所作もだいぶ洗練されたらしく、家族から感心された。
そんなふうに過ごして、1年が経過した。
「そろそろまたお茶会を開くそうだ」
そう言いながらお父様がお茶会の招待状を3枚持っていた。言わずもがな、王家主催の婚約者、側近候補の集まりである。
拒否権は無いに等しい。もちろん体調不良等どうしても用事がある場合は仕方がないのだが。
そもそも、嫌がる人はほとんどいない。皆将来のため、お家のために殿下に気に入られようと必死なのである。
そんな中どうにかして毎回欠席しようと試みているわたくし。だって、側近候補としてお兄様とトミーがいるし、殿下に興味が薄い身にとっては血眼になって頑張るというモチベーションがないのである。
幸い、お兄様とトミーは殿下に気に入られているらしいので、本当に頑張る気が起きない。
頑張る気が起きない理由の、もう一つはパトリシア様だ。殿下に選ばれるべく、他の候補者に負けない様に努力している姿は応援する他ない。そんなわけで最近のわたくしは、パトリシア様がうまく立ち回れるようにさりげなくサポートしている。
とりあえず存在感を消して、たまに思い出した様に会話に入る。核心を突くような事はパトリシア様が言うように仕向け、当たり障りない会話を心がけている。
お兄様には努力の方向性がおかしいと言われているけれど、わたくしにとっては大真面目である。
しかし、最近おかしい気がするのだ。
以前より殿下に話しかけられる回数が増えている。前まで話しかけられることが無い時もあったというのに。
それに時々視線を感じてそちらを見ると殿下がいるのだ。隣にパトリシア様がいるからかと思いたいのだが、なんとなく嫌な予感がした。
(そう言えば前世でこんな言葉があったわね。……"強制力"。もしかしてそういうのも働いている?)
相変わらずそれに関しては何も正確な情報はない。
しかし野生の勘というべきか、特に男性において近づき過ぎない方が良いと思ったりすることがあるのだ。
今のところ、殿下ともう1人。肩書きでも将来は宰相確実と言われており、集まりの中でもかなり目立っている。
特にその2人には自分からは近づいていない。他の人で全くそんな風に思わないこともあるのだから、自分の感覚は大事にしようと思っている。
そんな思いとは裏腹に、お父様はわたくしが殿下に選ばれて欲しいようだ。最近では殿下の話を良くしてくるのがいい例だ。
1年前にわたくしが言った、「結婚しない」宣言を覆そうと努力している。それでも強制はせず、いつも逃げ道を用意してくれているので結局は甘い。
お母様曰く、幸せになって欲しいけど、嫌われたく無い。だそうだ。
そんなお父様の優しさを感じて自分勝手に振る舞う気が起きなくなり、お茶会には毎回キチンと参加している。参加中はさっき言った通りなのだが、参加することに意義があると熱弁されて許されている。
「ヘティ。表情から思っている事はわかるが……とりあえず参加しなさい。人脈を作る事は将来役に立つのだから」
「わたくしの表情は変わらないはずなんですけれど」
家庭教師からついに太鼓判を押されたのだ。そんなにあからさまに出てないはずと思ったのだが、
「私はお前の父だからな。些細な表情でもわかるよ」
そう言われるとなんだか恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。お父様に笑われて、ますます恥ずかしくなってしまった。




