まさかの展開です
公爵邸に到着した。向こうの執事が出迎えに応じてくれて、客間に案内される。
客間に入ると、公爵夫人がいた。パトリシア様より濃いブロンドの髪。琥珀色の瞳。パトリシア様はお母様似なのか、一見キツそうな印象を受ける。
「ようこそお越しくださいました。さあ、お座りになってください」
「お招きいただきありがとうございます。お言葉に甘えて失礼しますわ」
お母様と隣同士でソファに座る。侍女がお茶を用意してくれている間、こちらを見定めるように見つめられて背筋が自然と伸びる。
お茶が配られて、公爵夫人が先に飲む。わたくしたちもいただく。我が家と違うお茶を使っているが、こちらもとても美味しい。
「とても美味しいお茶ですわね。産地はどこですか?」
「領地で育てたものです。気温や水にとても拘っているのです」
「そうなのですね」
お母様が卒なく会話をこなしているが、わたくしは会話に入るタイミングがわからない。
それとパトリシア様は来ないのかな。もしかして前回のことで怒って、今回は苦情を言われるとか?
嫌な想像に手が汗ばむ。
「スタンホープ嬢はこの間のお茶会で、パトリシアと知り合ったそうね」
「は、はい」
こちらを見る目は射抜くようだ。公爵夫人の威厳がひしひしと感じて口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
「まずは謝らせてちょうだい。うちの娘が無礼をしたわね」
「い、いいえっとんでもございません」
まさか謝られると思わなかった。と言うより、表情と言葉があっていないように感じる。
「娘には厳しく言っておくわ。公爵家の娘ともあろうものが礼を欠いた態度をとってしまって」
「そんな、わたくしも言い返してしまいましたし」
「娘は暫く謹慎してもらってるの」
「っ!?」
予想もしていなかった言葉に息を呑む。しかし、公爵夫人はそれが当然だと言わんばかりだ。
「王家の次に身分が高い公爵家。その公爵家が積極的に敵を作るわけにはいかないわ。しかも殿下の誕生日お祝いという席でそのような態度は許されることではないの」
確かにそうかもしれない。ただでさえ、少しのすれ違いや考え方の違いで敵を作ってしまうような世界だ。
場所も悪かったのかもしれない。
けれど。
(言葉選びが下手なだけで、内容はこちらを気遣っていてくれたのに……!)
ドレスをぎゅっと握る。言葉を探すが、なんといえばいいかわからない。
「貴女は娘を上手く躱してくれたそうね。そのおかげで大きな騒ぎにならずに済んだわ。だから、今回はお礼を言わせて欲しかったの」
その言葉に顔を上げる。先ほどと違い、どこか不安そうな眼差し。
「お礼を言われるようなことはしておりません。しかしそれならばお願いを聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「まあ、お願いですか?」
その表情は再び強いものに戻る。図々しいと思われているのだろう。それでも引き下がるわけにはいかない。
「はい。パトリシア様の謹慎を解いてほしいのです」
その目はこちらの真意を問うている。
「公爵夫人はパトリシア様の態度を問題視してのことだと理解しております。しかし、わたくしはパトリシア様がわたくしを慮っての言葉だと理解しております。言葉選びが良くなかっただけで、心優しい方だと思っております」
先ほどと違い、目の鋭さが無くなっている。左下へと視線が動いている。考え込んでいるのだ。もう一押し。
「それにわたくしは、パトリシア様の所作を見て、とても気品に溢れた方だと感じました。わたくしには無いものです。貴族令嬢としてお手本のような方。きっと公爵夫人の教育の賜物でしょう。そんな方とお友達になりたく、今回お茶会に参加することを承諾しました」
その言葉に夫人がこちらを見る。心なしか潤んでいるようだ。
「どうか、ご厚情をお願いいたします」
そう目を見つめて言った。
30話突破しました!
拙い文章ですが、読んでくれてありがとうございます!
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