さようなら、臆病だった私
遅刻すいません
頭を撫でると、フレディ様の体が硬直した。
こちらに伝わって来るほど体を強ばらせていたので、思わず手を止める。
「ふ、フレディ様?」
「エッタ、今どう言う状態か分かってやっているのかい?」
その言葉で、一旦客観的にわたくしたちを見る。
フレディ様をわたくし自身の胸に埋めている……。そして頭を撫でている。
「……一部から需要がありそうですわ」
「何となく言いたいことはわかるが、とりあえず離れよう。これ以上はちょっと……」
顔を赤くしている。うん、青年だ。
言われた通りに、フレディ様を解放した。
それにしてもフレディ様って前より感情表現が豊かになっている気がする。
会議室でもわかりやすく表情を変えていた。けれど前は常に微笑みを浮かべているような感じだった。
人のことは言えないけれど、わたくし達貴族は常に仮面を被っていることが常だ。
いや、本当。わたくしは人のことを言えないけれど、今はさておき。
フレディ様ももちろん、それが呼吸と同じように出来ていたと思っていたけれど。
「フレディ様、今後はハニートラップに気をつけてくださいね」
「なぜ急にハニートラップが出てきたんだ……」
「今のフレディ様、よく感情が表に出ているのでつい。以前は違いましたよね?」
「ああ、そういうことか。以前にも言ったけれど、僕はエッタ以外に興味ないよ。裸体を見ても何とも思わない」
「そんな殿方います? 絶滅してると思うのですが」
「……とりあえず、そのくらい一途だ。それより、僕が今こんな状態なのは、エッタのせいなんだけれど」
「わたくしですか?」
首を傾げると、フレディ様は恨めしそうな表情でこちらを見てきた。
「エッタが僕の予想の斜め上をいくから、対処しきれないんだよ。僕だって好きで感情出しているわけじゃないんだ。取り繕う前にエッタがそうさせないんだ」
「そ、それは失礼しました」
原因、わたくしだった件。
確かに学園に入学してから、その機会が増えたなとは思ったけれど。
単純に、仲良くなったからだと思っていた。
「フレディ様、陛下や王妃様に言われたら、わたくしを呼んでください。わたくしも謝罪しますわ」
「……いや、大丈夫だ。その、喜ばれたから。代償にそれはもう揶揄われたけれど」
「まあ……」
陛下達、結構柔軟と言えばいいのか。
そういえば時々言っていたな。フレディ様がここまで変わるなんて、みたいなこと。
うん、とりあえずフレディ様の評価が落ちなかったことは良しとしよう。
けれど機会があれば、謝罪しよう。次、いつ会えるかわからないけれど。
「エッタ」
「はい?」
「とりあえず、今回のことは一区切りついた。僕たちが考えていたよりも重い罰を受けたことで、便乗していた国も震え上がっていたよ。表向きは僕たちが決定したことになっているから」
「ああ……もうそれだけで容赦ないと思われますね。しかし、それで軋轢にはならないのでしょうか?」
「そこもクリアしている。今回は見せしめだ。それにそれこそ、エッタの対応のおかげもある」
「わたくしですか?」
「ああ。あそこで王族として満点の姿勢を見せたからこそ、自分達のやろうとしてたことがどれほど愚かなことか理解したんだ」
「それは……良かったですわ。わたくしもまだまだ未熟ものですが、評価していただいたのですね」
「違うんだ、エッタ。元々エッタは気高い精神と、王族にふさわしい考えを身につけていたんだ」
「そうでしょうか?」
逃げ回っていましたけれども。それは既にふさわしくないのでは?
「魔物襲撃事件は、あれは本来教科書通りの対応だったからね。とはいえ、今でも認めていないけれど。それに、卒業パーティーについてのこともそうだ。初め、話が来た時に卒業生の心配をして、パーティーでも実際、それに言及した。他者を慮り、他者のために動くエッタは正しく王妃に相応しい人物だったと言うことだ」
真剣な瞳で言われて、なんだか恥ずかしくなってしまう。
「そうですか……ふふ、わたくしの行動が、皆様の助けになったのなら嬉しいですわ」
「ああ。ありがとう、エッタ」
「けれどここまでわたくしが頑張れたのも、フレディ様のおかげですわ」
フレディ様の目を真っ直ぐに見返していうと、少し考える仕草をした。
「じゃあ、1つお願いしても良いかな?」
「わたくしにできることでしたら何なりと」
「……キス、して良いかな」
言われた言葉を理解するまでに、一拍時間がかかった。
理解した瞬間、自分の意思に反して体中が沸騰する。
「なっ、えっと、フレディ様、パーティーで頬にキスしてきたのに、今更なにを」
「え? 唇にはしていないじゃないか」
心底不思議そうな顔されたけれど、もう意味がわからない。
先ほどまでの真剣な雰囲気はどこへ。
「そ、そういうことではありませんわ!」
「じゃあ、良い?」
「〜〜〜〜っ! わざわざ言葉にしないでくださいませ!」
「ははっ。エッタに初めて勝った気分だ」
笑っているけれど、フレディ様は前にも学園の廊下でやりましたよね⁉︎
どちらかというと貴方の方が勝ち星は多いのでは⁉︎
色々言いたいのに言葉が出ないわたくしの頬に、そっとフレディ様の手が触れる。
揶揄う割には、まるで壊れ物を扱うかのような優しさだ。
「エッタがそんな風に照れてくれるととても嬉しいのと同時に、もっと乱したいと思ってしまうな」
「わ、わたくしたちはまだ婚約者ですわ!」
「さっき僕を胸に埋めたくせによく言うね」
しまった、ついやってしまったことが裏目に出た。
けれど必死に頭を働かせて、なんとか反論する。
「あ、あれは、そう服が間にありますから問題ありませんわ! それこそ、ダンスでも密着するではありませんか!」
「ええ? けれど女性の胸に男性の顔を埋めることはないよ?」
くううっこのままでは負ける!
フレディ様、今までの余裕の無さはどこへやら。とても楽しそうだ。
「何なんですの! 心配して損しましたわ! せっかく乙女の秘術で癒して差し上げようと思いましたのに!」
「うん、とても柔らかくて良い匂いがした」
「発言が危ないですわ!」
「その発言させているのはエッタなんだけれどなぁ。それに確かに癒し効果は抜群だったよ。おかげさまで余裕が戻ったんだから」
気の抜けた笑顔を見て、力が抜ける。
忘れていた呼吸を、大きく息を吐くことで思い出した。
興奮がすこし落ち着く。
「もう……負けました」
「あははっ。じゃあ、良いよね?」
「……はい」
また顔に熱が集まる。
結局、わたくしだってフレディ様が好きだもの。
求められたら、応えたくなってしまう。
目を見ていると心臓が爆発しそうになってしまうので、目を閉じる。これはこれで感覚が研ぎ澄まされて、余計にドキドキするけれど。
思っているよりゆっくり、体温が近づいてくる。
その感覚すらどんどん鋭敏になっていくようだ。
柔らかいものが唇に触れる。
「エッタ……」
切なげな声に、目をそっと開ける。
目の前には、隠しきれない熱を宿した赤い瞳。
自然と想いが溢れる。
「フレディ様……好きです。愛しています」
「僕も、愛している……」
ああ、愛する人とのキスってこんなに幸せなんだ。
今度はわたくしからフレディ様にキスをする。
強く抱きしめられながら言われた。
「2度と離さないから。覚悟してくれ」
「わたくしも離れる気はありませんわ」
例えフレディ様が離そうとしたって、意地でも着いて行きますから、覚悟してくださいませ。
だから大丈夫。わたくしは、もう過去に囚われたりしない。
――バイバイ、臆病だった私――
そっと前世の記憶にさよならをした。
次回、若しくは次次回あたりに最終回予定です!
最後までよろしくお願いします!
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