好き勝手した末路は
あれから数日。
フレディ様は、やはりあの後わたくしが帰っていたのがショックだったらしい。
お父様とお兄様から、笑いを噛み殺しながら教えてもらった。
2人ともフレディ様に複雑な感情みたいなので、いつもより生き生きしていた。
それはさておき。
件の国王と王女に対する処遇は決定したらしい。
国王は国を統べる器なしと判断されて、退位を余儀なくされた。
王太子が即位し、国王は領地で静養という名の幽閉だ。
これには元々ナトゥーラ王国に友好的だった国も協力してくれ、このまま退位しないのであれば国交断絶と警告した。
そして王妃と王太子が事態を重くみて、国王を幽閉すると言ってきたのだ。
王女の話を聞いて、王妃は真っ当かもしれないと思っていたが自分の夫を退位させるとは。
(もしかして国王は王妃に仕事を押し付けたりしたのかしら)
そんな憶測が頭を掠める。
そしてあながち間違いでもなかったそうだ。
王太子も真摯に対応してくれていた。向こうから処刑しても良いと言ってきたと聞いた時には、流石に驚いた。
もちろん陛下達も驚いたらしい。陛下が流石にそこまでする必要はないと止めたそうだけれど。
普通逆では?
そして王女は。
ナトゥーラ王国とは距離がありすぎて、国交のほとんどない国の王族に嫁ぐそうだ。
向こうの国としては、それで融通してもらえることになるから構わないと。
修道院が妥当かと思っていたら、王族に嫁ぐことになるとは予想外だ。
向こうはそれで良いのかと思っていたら、なんと相手の国王は訳ありらしい。
愛妾として、見た目だけはいい王女を御所望したそうだ。
その一連の話を、わたくしは応接室でフレディ様から聞いている。
報告がてら、会いに来てくれたのだ。
お茶を飲みながら、一通り話終えたフレディ様は息を吐いた。
「何というか……闇が垣間見えますわね」
「ああ。どうやら王女は王妃の養子となってはいるが、本当はメイドの子らしい。つまり、不貞の末の子だな」
「王妃はそれを許容したのですね」
「ああ。実の母親は、出産と同時に命を落としたらしいから。王妃の慈悲だ。とはいえ、王位継承権はなし。本来であれば、その国の貴族と結婚する予定だったが……」
「……まさか、嫌がった?」
「そのまさかだよ。教育は嫌がって最低限のマナーしか身につけないわ、しょっちゅう使用人に当たり散らすわ。国王が溺愛しているのも、その態度に拍車をかけた。庶子だというのも公然の秘密だったらしい。そんなだから、なんとか国王が取り付けた婚約は、王女が勝手に破棄してしまった。彼女は王族のままでいたかったらしい」
なんだろう。この、物語によくありそうな構成。
「今回のことも国王の独断だ。というより娘に泣きつかれて暴走した感じかな。王妃は僕とも話したことがあって、王女を選ぶわけないとわかっていたそうだ。きっとやらかすから、追いやるチャンスだと着々と準備していたらしいよ。そのおかげでここまで早く、処分が決定したんだけれど」
「なるほど……」
「あ、ちなみに王女の嫁ぎ先の国王だけれどね。王妃からき聞いたんだけれど、とても精力があるらしい」
「はい?」
セイリョク?
言葉の意味が理解できない。
「そう。なんでも向こうの直系男子、というか国王になるとそうなるらしいんだけれど、とても王妃1人では耐えられないらしくてね。王妃も承知の上で、発散のために時折愛妾を引き入れるそうだよ」
「え、ええっ?」
「国王は王妃一筋。愛妾はあくまで道具。そうなるように、素行に問題のある女性を引き取っていたそうだよ。食事に避妊薬を混ぜて、妊娠させないようにしてね」
次々出る衝撃の情報に、開いた口が塞がらない。急に18禁の世界になった?
「だから王妃と王太子は、これが良いと判断したそうだよ。自分の行いのせいで、得られるはずだった穏やかな日常はもう2度と手に入ることはないということを理解させるために」
「そ、そうですわね。王妃の養子として認められていたのなら、そして教育が出来ていれば、王藉から消えたとしても穏やかだったでしょう」
「好き勝手した結果だね」
何といえば良いかわからず、沈黙が降りてしまう。
フレディ様はため息を吐いた。
「すまないね。重い話になってしまって」
「いいえ。わたくしが知りたいと言ったのです。フレディ様が謝ることはありませんわ」
思った方向と違いすぎてびっくりだ。もしかしてこの世界、続編とかあったのかしら?
それにしても急に生々しくなったけれど。
「それで、いつあちらの国に送るのです?」
「今」
「はい?」
「今、もう送られているはずだよ。僕も向こうと話そうとしていたんだけれど……。王女に会わせない方が良いとなった」
「それは……どちらの意味で?」
知りたいような、知りたくないような気持ちが渦巻く。結局、好奇心に負けて聞いてしまった。
「…………僕に縋ろうとするからと」
「うわぁ」
お花畑、フレディ様に燃やし尽くされてもしぶとく咲いたのか。
すごい。ある意味すごい。その根性、他に向ければもっと違う人生があっただろうに。
フレディ様は、頭を抱えている。
「僕ってそんなに押しが弱いのか? かなり強く言ったはずなんだけれど。あれで通じないってなに?」
「落ち着いてください。あの時のフレディ様は憎悪すら滲み出ておりましたわ。それすら上回って暴走できる王女がすごいのです。性格的に敵わないのです。諦めましょう」
なぜかフレディ様がショックを受けている。
けれどあの王女達の思考回路は、言葉を選ばずに言うと同じ人間だとは思えない。
魔物と意思疎通が出来ないのと同じだ。ひどい言い方だとは思うけれど、実際こんな感じだと思う。
「けれどこの国を背負って立つならこのくらい出来ないと……」
「あれは陛下ですら無理ですもの。あれは災害です。人間が対処できるレベルを超えています」
「僕がエッタを愛していることを、もっと広めれば良いのか?」
「いいえ、十分ですわ。お父様もお兄様も複雑な表情をしていますし、噂もわたくしの耳に入るくらいですのよ。本当に思考回路が違うのです。話が通じないのです。これは能力の問題ではありません」
ここまで言うと、ようやく止まった。
しばらく俯いて固まっている。
と思えば、顔を上げてこちらをみた。
目が潤んでいて、不意打ちに胸がキュンとなる。
「本当に、そんな噂が?」
「ええ。フレディ様もこれからこっそり耳を澄ましてみると良いですわ。恥ずかしいですが、聞こえてきますから」
「そうか……ちょっと、安心した」
へにゃりと笑ったその顔に、さらに胸が締め付けられる。
自分の愛情表現が足りないのかと心配されてたのね。相手に通じなかったことで、自分に自信が無くなったと。
なにそれかわいい。
衝動的にフレディ様の頭を引き寄せた。
「⁉︎」
「もう、フレディ様ったら。そんなに心配する必要はありませんわ。だって見てください。わたくし、変わったと思いませんか?」
「な、えった……」
「どうです? フレディ様からみて、どこか変わったところがあるでしょう?」
「そ、その……綺麗だよ。だから余計に不安になったというか……」
「そうでしょう? 女は愛されて輝くものですわ。今のわたくしはフレディ様のおかげですのよ」
自分で言うと、自己愛すごいなとは思うけれど、家族やエマ達に言われれば自覚せざるを得ない。
それにわたくしも鏡や、ふとした鏡に映る瞬間に変わった気がすると思うのだ。元々整っているなと思っていたけれど。
自分で育てたのに、不安がっているフレディ様はやはり年相応の青年だ。
パーティーの時は堂々としてたのに、かわいいなあと頭を撫でた。
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