フレディ様も人のことを言えませんわ
お父様はその後、すぐに早馬を出してくれた。寝る前には返事も来ていたのだから、陛下も多忙な中返事をくださったということだ。とてもありがたい。
いや、ありがたいを通り越して、申し訳ない気持ちもある。
手紙には、ぜひ来てほしいという旨が書いてあったとのことだ。陛下もフレディ様のことを心配していたそうなので、強制的にでも休ませたいらしい。
もしかしたら陛下も、フレディ様が魔力暴走しかけたことを知っているのかもしれない。親だし、むしろわたくしより分かっていそうだ。
そう考えればわたくしのためというより、フレディ様のためかもしれない。手紙には理由がきちんと書かれていたけれど。
色良い返事が貰えたので、早速次の日の朝になるとエマを筆頭に磨かれた。
最近、なんだかんだ磨かれる頻度が増えたので、以前より疲れることが少なくなった。
あれほど大変だったのに、慣れって凄い。
「いつもありがとう」
「とんでもありません。お嬢様がこの国で一番美しくなれるようにするのが、私の幸せです」
そう言うエマ、頷く他の侍女達の表情は光輝いていた。
そう思ってくれるなんて、本当に嬉しい。
「では行ってらっしゃいませ」
「ええ、行ってくるわ」
お父様、お兄様と共に馬車に乗り込む。
動き出してしばらくすると、お父様はどこか寂しそうに言った。
「へティ……とても綺麗になったね」
「そう言う割に、なぜ寂しそうなのですか?」
「いや、僕も父上の思いがよく分かるよ。……王太子殿下のお陰だと思うと、何だか悔しさがね」
「な、急に何を……」
全く想像していなかった言葉を言われて驚いてしまう。
「ああ、アル。それは言わないでくれ。より実感してしまう。いや、愛する娘が輝く姿は何物にも変え難い。しかしそれが他の男だと思うと」
「お、お父様、その言い方はいろいろ誤解が生まれます。あと、不敬です」
「いや! 私は貴族である前に1人の父親だ! いくら高貴な身分が相手だろうとも負けない!」
「お父様! 家族としてその気持ちは嬉しいですが、貴族としては失格ですわ!」
「今は馬車の中という密室だから問題なし!」
「お父様のことなので、ここで済みそうにないのが怖いです!」
「父上、深呼吸です。落ち着いてください」
お父様が暴走しそうで怖い。本当に。
実際陛下達の前でも親バカ発言していたし、信用できない。
子供2人に嗜められて、お父様は一息つく。
「ふう。いや、王太子殿下は文句が付けようがない。へティの相手として最適だ。しかし……」
「父上、それ以上は考えてもループに入るだけです。それに着きましたから切り替えてください」
「む」
お兄様が言うのと同時に、馬車が止まる。
なんとかお父様の意識を別に向けてくれた。お兄様、グッジョブです。
お父様にエスコートされて降りる。何人か同じように着いているのが確認できた。それも親子と思われる2人組がほとんどだ。
「今回のことは、僕たち成人した者達の初仕事でもあるね。王太子殿下を筆頭に、今回のことをどう処理するか僕たちが考えることになったんだ」
「だから今回、お兄様もいらっしゃるんですね」
「そうだね。もちろん、父上達がサポートをしてくれる。まあ将来のための予行演習のようなものだね」
「たしかに、近隣国も関わることで初めてのお仕事は責任重大すぎますもの」
間違えれば最悪戦争だ。卒業パーティーの本来の動きを考えると、本当一気に責任が重くなる。
わたくしはお兄様以外の卒業生がどういう方々が、詳しくは知らない。今回のことでも、お兄様が先立って動いたので一人一人と顔を合わせることはしていなかった。けれど、お兄様から悪い話は終ぞ聞かなかったのであまり心配もないのかもしれない。
今日は会議室に集合するらしい。会議室はダンスホールに負けないくらいに、かなり大きい部屋だ。
陛下は会議室にわたくしも来るように仰っていた。
その方がフレディ様が休む理由を言うのに効率がいいと言うことみたいだ。確かに今回のことで一番動いている方が来なくなるのは、周りの方々が驚いてしまうだろう。
皆、開始時間より早めに来ている。王族を待たすわけにはいかないということだ。
会議室に入ると、視線がわたくしに集中するのが分かった。驚きの表情がほとんどだけれど、何人か顔を輝かせているのはなんというか、照れてしまう。
自惚れでなければ、好意的に受け入れてもらえているということだから。
まあどう言う理由にせよ、注目されるのは分かっていたので、驚くことなく挨拶する。
「ごきげんよう。昨日は皆様、お忙しかったことと存じますわ。わたくしも当事者の1人ですのに、参加できずに申し訳ありませんでした」
「気にすることはありません。どちらかというと、王太子殿下の命令でしたので」
そう答えてくれたのは、バーナード公爵、つまりダニエル様のお父様だ。
ここにはダニエル様はいない。まだ学生だからか。
「父から聞きましたわ。しかし、殿下の婚約者として、そういった殿下の暴走を止めることも必要かと思いますの」
「ははっ。的確な指示を出せる暴走は、見習いたいものですよ。しかし、確かに王太子殿下は鬼気迫るものがありますので、そのオーラで気圧されてしまいます。そのオーラを鎮めることができるのは、スタンホープ侯爵令嬢だけでしょう」
そういえば、バーナード公爵とはあまり会話をしていなかった。わたくしの記憶にあるのは、王妃様に詰問されていた時が鮮明だ。
あの時の萎縮した感じはなく、堂々としている。
いや、あの時の方が珍しいはずなのだけれど。いかんせん、強烈な記憶だったから。
そして席に座って待つ。皆、わいわい雑談しているようだ。
聞き耳を立てていると、雑談の中にも近隣国の状態だったり、我が国との関係性の話のようだ。
これは有利な情報収集になるなと、集中していると陛下達がやってきた。
一斉に立ち上がり、臣下の礼を取る。
「楽にして良い。今日も集まってもらい、感謝する」
陛下の声に、顔を上げる。今日は王妃様もいるようだ。
目が合うと、陛下はわずかに眦を下げ、王妃は微笑んでくれる。
そして、フレディ様は。
「…………」
無言で目を擦ったかと思えば、こちらをじっと見ている。
その表情はまるで、幻を見てしまったかのように呆然としていた。
もしかして、疲れすぎて現実が曖昧になってらっしゃる?
「フレディ、どうした?」
陛下、顔がニヤけております。揶揄う気満々ですね。
「陛下、ここにいるはずのない、エッタがいるように見えるのですが」
「ああ。私が許可した」
「何故」
「それは、ヘンリエッタ嬢の性格を考えれば、すぐに分かると思うが?」
「ですが」
「それ以上は本人に言うといい」
そう言うと陛下は目配せしてくる。
ここで話をさせると言うことは、周りの方々にわたくしもちゃんと動こうとしてますよ、というアピールが大きいと陛下は手紙に書いていた。
フレディ様のためでもあるけれど、わたくしのためでもあると言うことなのだ。それを手紙で書いてくださっていたあたり、本当に懐の大きい方だ。
「フレディ様、わたくしは悲しいですわ。まさか蚊帳の外に放り出されるなんて」
「いや、エッタはあの時誰よりも頑張っていただろう。私よりも仕事をしていたんだ。休んでもらおうと思うのは当然だろう?」
「あれは当然のことですわ。流石に我が国をあれほど侮辱されて、黙っている訳には行きませんもの。それにフレディ様もここにいる皆様も、心労などは大きな差はありませんもの。それなのに、わたくしだけ休むなんて出来ませんわ」
「それは……」
ここまで言っても、渋るフレディ様。
優しく言ってもダメなら脅すか。
わたくしは近づいて、そっと耳元で囁いた。
「これ以上、わたくしを蔑ろにするなら……魔力暴走したのに、無理矢理働いておられると吹聴しても良いのですよ」
「ぐっ」
「皆様、どう思うでしょうね? フレディ様ともあろうお方が、限界超えて立っていると知れば。もしくは急に倒れでもしたら。ええ、想像するだけでも恐ろしいですわ。皆様フレディ様を慕っておりますもの」
わたくしの言葉にフレディ様は、まずいという表情をする。
「エッタ、脅すようなことはやめてくれ」
「臣下が気を揉むようなこと、フレディ様も望んでいないでしょう?」
止めに周りの人たちを引き合いに出すと、フレディ様は項垂れた。
やっとわたくしだけでなく、皆も心配していると理解してくれたようだ
わたくしの勝利である。
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