卒業パーティー④
貴女のために引いた方が良いと思っていたけれど、もうそれは無理なようだ。
扇子、折れてはいないけれど曲がってしまってるし。
「なぜですの? わたくしの方が、その女よりフレディ様を愛していますわ! 父もわたくし以外に相応しい人はいないと言っていたのよ! ああ、分かったわ! あなた、フレディ様を誑かしたのね‼︎ 卑しい女! 今すぐその場を変わりなさいよ!」
「貴女に私の名前を呼ぶ許可をした覚えはない」
「ああ、お可哀想なフレディ様。待っててください。今すぐ、わたくしがその女狐を処分してあげますわ!」
もうフレディ様の声も届かないらしい。
淑女ではあり得ない、大声をだして当たり散らしている。ひっそりと伺っていた周りの人たちも、さすがに驚いたようだ。
しかしそれだけではない。取り巻きたちも揃って、こちらを非難してきた。
「そうよ! たかが侯爵家の娘が図々しい! 貴女には不相応だわ!」
「どうせ、その体で誘惑したのでしょう⁉︎ やっていることは娼婦よ!」
チラと周りを確認する。あの国王は……いた。なるほど、気がつかないふりをしているわね。
けれど上がっている口角を隠しきれていないわ。止めるつもりはないと。
そこまで把握し、視線を戻す。
ちなみにこの間、3秒にも満たないと思う。
わたくしは、ゆっくり微笑んでみせた。
それだけで、向こうは黙る。
「あら……随分と小鳥の鳴き声が騒がしいですわね」
「なんですって⁉︎ 貴女、わたくしを誰だと思って――」
「我儘で、何も考えていない。お花畑にいらっしゃる王女様でしょう?」
「なんですって⁉︎ こんな女がフレディ様の婚約者だなんておかしいわ!」
「では、具体的にどのような人がフレディ様に相応しいのでしょうか?」
「わたくしに決まっているでしょう⁉︎」
「貴女がフレディ様に相応しい点はなんでしょうか?」
「そんなことも分からないの⁉︎ わたくしのような美しい人間は、生まれながらにしてトップに立つことが決まっているの‼︎」
予想以上にヤバい人だった。ちなみにフレディ様が何も言わないのは、わたくしが相手からは見えないように注意しながら、手を強く握っているからだ。
ここまで王族の存在を愚弄しているのであれば、相思相愛ぶりを見せつけるだけでは足りない。矜持を見せつけて、2度と国を出られないくらいにしないと、他の国でもやらかしかねない。ここで終わりにさせないと。
それにしても、同じ王族でどうしてこうも違うのか。
しかし、フレディ様が危ない気がする。余計な思考を頭から追いやった。
「他には?」
「はあ⁉︎」
「美しさだけで王妃が務まるとお思いですか? 貴女自身は何ができるのかお聞きしているのですが」
「何言ってるのかしら? わたくしのような、美しい人間が王妃となれば貴族だって嬉しいでしょう? わたくしがこの国に嫁ぐだけで平伏して感謝すべきなのよ!」
こいつ、どんなお花畑な頭してんだ。
あ、つい言葉遣いが乱暴に。
ついでに周りの人たち、取り巻き以外は軽蔑するような眼差しを隠さなくなった。
まあ、今の発言をする時点で、ねぇ?
「なるほど、よく分かりましたわ」
「やっとわかったのね。ふん、それじゃあさっさと――」
「たかが見た目の美しさだけで、王妃に相応しいと思っているなんて随分夢見がちなお方なのですね」
「は?」
ポカンとした間抜けヅラになる。
こちらは笑顔を絶やさない。しかし、そこに嘲りの色を乗せる。
「だってそうでしょう? いつまでその美しさが保てるのかしら?」
「はあ?」
「たとえば、貴女が歳をとって、その肌に皺一つ、シミひとつないまま保つことができるのかしら? もしくは明日、その顔に一生消えない傷が出来たとしたらどうするのかしら?」
「何言ってるの? そんなことが――」
「起きないと、なぜ言い切れるのです?」
「わたくしが王女であるからに決まっているでしょ!」
「会話になりませんわね」
とんだお馬鹿さんだ。多分、わたくしが何を言いたいのか、理解できていない。
「貴女の母君――すなわち王妃様はどうでしょうか? 何をされてらっしゃいますの?」
「お母様なんて美しくもなんともないわ! 毎日毎日公務や慈善事業なんてやってみっともないったら! 泥臭いことは、すべてやれる人に任せておけば良いのよ! わたくしは数々の宝石や美味しい食事をしているだけで良いのよ!」
王妃様はマトモだわ。
何故この子は尊敬出来なかったのかしら。
「なるほど、よく分かりましたわ。貴女がいかに狭い世界で生きてきて、どれだけ傲慢に生きてきたか。それで王妃になろうなど、身の程を知りなさい」
「なんですって! 誰に物を言っているのよ! 立場を弁えなさい」
「自分の立場を当然のものとして享受し、踏ん反り返っている人の立場なんて、砂上の楼閣とおなじですわ」
「わたくしは王女よ!」
「貴女は王女として、何も為していないでしょう。少し調べましたが、貴女の為人は理解していますわ。使用人は奴隷同然で、気に入らないことがあると暴力を振るい、暴言を吐き、最後には追い出すそうね?」
「わたくしの希望を叶えられないのだから、当然のことでしょう⁉︎」
ここで言うつもりもなかった情報を提示する。頭に血が上っている王女は何も気がついていないが、国王が慌てた様子が見えた。
まさか、自分の国の内情がそこまで漏れていると思わなかったのかしら? 周りの取り巻き達も驚いた表情をしている。
「ねぇ、周りを見てごらんなさいな。貴女、自分が何を言ったか理解できていないようだけれど、その答えは周りが教えてくださいますわ」
「は?」
そこでハッと周りを見る王女。みれば取り巻き達も途中から分が悪いことを悟ったのか、観衆に紛れていた。
そして向けられる冷たい視線。もちろん国王にも同様の視線が注がれていた。
「な、なによ……っ。わたくしが間違いなはずないわ……」
その視線の冷たさに怖気付いたのか、先ほどより弱々しい声になる。
きっと、蝶よ花よと甘やかされてきた王女にとって、この視線は初めてのものなのだろう。
けれど、容赦なんてしない。もう幼子ではない、成人した女性なのだ。
ちゃんと周りを見ていれば、自分がおかしいと気がつけるはずなのだ。それが出来なかったと言うことは。
「周りの方の反応が答えですわ」
「うそ……うそよ!」
「そもそも王妃は、王侯貴族は何故贅沢を許されていると思うのです?」
「え……」
「何故、人の上に立つことが許されているのか。それは何かあった時、全ての責任を負うと言うことに他ならないからですわ。国を守り、貴族を守り、平民を守る。民から食べ物やお金を集める対価として、王族や貴族は民が快適に暮らせるようにその人生を尽くすのです」
「そんなものは……」
「ただ、求めるだけで何も返さないのは泥棒と同じです。対価を払わないのであれば、敬意を払う気価値もありません。敬意がなければ何かあった時に、真っ先に裏切られるのは誰でしょうね?」
ただの道具であれば、そんなことも出来たかもしれない。けれど道具だって、お手入れをしなければあっという間に使えなくなる。
それが意志のある人間になればどうなるだろうか。そんな人のために頑張りたいと、誰が思えるであろうか。
人間は元より傲慢なのだ。自分にとって利にならない存在になった途端、切り捨てることは珍しいことではない。
「ところで、貴女は今日が元々なんのパーティーだったかご存じでしょうか?」
「え? わたくしのための……」
「ナトゥーラ王国魔術学園の、卒業パーティーですわ。貴女のせいで、ここにいる卒業生はする必要もない苦労をすることになったのです」
「な……」
「想像できますか? 学生最後の思い出を作ろうとしていたのに、横槍を入れられて何もできなくなった彼らの気持ちが。パーティーを開いたから良いだろうではないのです。だって主役の座をわたくし達に奪われたのですから。本来、主役は彼らですわ。それすらもわからないお子様が、王妃になろうなど片腹痛いですわ。特に今年の卒業生は貴女が我が国の王妃になろうなど、絶対に認めませんわ。傲慢で頭が空っぽな王妃など、人形を置いておいた方が何倍もマシですもの」
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