卒業パーティー①
誤字報告ありがとうございます
廊下を進む。大きな扉の前、すなわちパーティー会場の入り口には、陛下と王妃がいらっしゃった。
「2人とも来たか。ヘンリエッタ嬢、とても美しいな。今日この会場にいる誰より美しい」
「お褒めに預かり、光栄ですわ。しかし、この国の月である王妃様の前では霞んでしまいますわ」
「あらやだ。今日の主役はあなた達なのに、張り切りすぎたかしら」
「いいえ。王妃様はたとえ一昔前の流行ドレスだとしても、その滲み出る気品さで会場の注目を集めるでしょう」
「うふふ。さすがヘンリエッタ。緊張は大丈夫そうね」
フレディ様が少し不満げに言う。
「父上、母上。僕の株をあまり奪わないでくださいよ」
「全く、我が息子ながら独占欲が強い。これからが大変だと言うのに」
陛下が呆れたようにいう。わたくしと王妃様は笑ってしまった。
そして、2人の表情が為政者の顔に変わる。
「では健闘を祈る。合図をしたら入って来い」
「はい」
そうしてお2人は入場していった。扉が開いた瞬間の歓声が凄かった。
多分だけれど、わたくし達が入る時はもっと凄いよね。
流石に緊張で手が汗ばむ。
と、フレディ様がそっと手を握ってくれた。
「エッタはこう言う場は初めてだから緊張するだろう。けれど、エッタなら大丈夫だ」
「ありがとうございます、フレディ様。緊張しますが、せっかくの初めての舞台です。楽しむようにしますわ」
「それじゃあ、楽しめるように僕も頑張らないとな」
2人で微笑み合う。
陛下たちが挨拶をしている声が聞こえる。何を言っているかわからないけれど、卒業を祝う言葉のはずだ。
と、扉の前にいる護衛が取っ手に手を掛けた。
一度深呼吸をする。
思いっきり扉が開く。煌めくシャンデリアの眩しさに目を細めそうになりながらも、笑顔で入場した。
歓声と、驚愕の声。前者はナトゥーラ王国のもので、後者は他国のものだろう。
ゆっくりと進む。会場はダンスホール部分と、上で演説する部分大きく2つに分かれている。
わたくし達がいるのは、演説がしやすいように階段で区切られた上段。その真ん中に立つ。
そして陛下が誇らしげに宣言した。
「この場を借りて宣言させていただこう! 我がナトゥーラ王国王子、フレディ・イル・ナトゥーラを王太子として正式に任命する! それと同時に、隣にいる令嬢、ヘンリエッタスタンホープを婚約者として正式に認める!」
ザワッと空気が揺れる。
我が国は大きく拍手をしてくれているけれど、一部からすごい鋭い視線を感じる。
その視線、漏れなくフレディ様も分かっていますからね。
フレディ様が一歩前に出る。
「国賓の方々。今日は我がナトゥーラ王国魔術学園の卒業パーティーにご来院いただき、感謝申し上げます。私、フレディ・イル・ナトゥーラ。例年より早い発表となりますが、この度立太子する運びとなりました。また隣にいる、ヘンリエッタ・スタンホープ侯爵令嬢を婚約者として指名する運びとなりました」
わたくしの手を取り、前へ促すフレディ様。その表情は周りが黄色い歓声を上げるほどに、甘い表情をしている。
その表情を受け、わたくしも微笑み返す。また声が上がったので、良い感じの表情が出来ていたはずだ。
今までの受けた教育を総動員して、皆の前に立つ。
「ご紹介に預かりました、ヘンリエッタ・スタンホープにございます。フレディ様と共にこのナトゥーラ王国を支えるため、精進してまいりますわ。どうぞよろしくお願いいたします」
カーテシーをして宣言すると、また歓声が上がる。
顔を上げて、優雅に微笑んで見せる。全体を見渡すだけ。今はそれだけで煽れる。
陛下に合図されわたくしとフレディ様は横に避けて、陛下に場所を譲る。
「今宵は楽しんでいただきたい。では卒業生から中心にダンスをしていただこう」
その言葉とともに、楽団が音楽を奏で始める。わたくし達もダンスホールへ向かい、向かいあった。
周りにはチラリとだけれど、お兄様とパトリシア様の姿が確認できた。
メアリー様やトミーは壁際にいるようだ。まあ、卒業生でもない限り、基本は1曲目は踊らないことがほとんどだ。
卒業パーティーなので、卒業生に譲ると言う名目だ。王太子になったからと踊るわたくし達がイレギュラーなのだ。
他所に意識を飛ばすのはここまでにしてフレディ様を見つめて微笑む。
「エッタと踊れるなんて夢のようだ。集中してくれるよね」
どうやらパトリシア様達を探したのがお気に召さなかったらしい。
宥めるように、そして見せつけるように、そっと頬に手を伸ばす。
一部からのオーラを感じながら、甘く微笑む。
「もちろんですわ、フレディ様。今のわたくしにはあなた様しか見えませんもの」
「全く調子が良いんだな。良い感じだ」
そして踊り出す。今回がデビュタントとなるわたくし達。それでも今日のためにみっちり練習してきた。
どういう踊り方をすれば、相手に見せつけられるか。その計算もしている。
打ち合わせ通りに優雅に、そして見せつけるように踊る。
そうすれば、一部からのオーラがさらに強くなった。
「あらあら。ここまでしても、怯むどころか闘争心を燃やしてらっしゃるわ。結構な自信家でいらっしゃるのね」
「まわりを味方で固めているのも助長している原因だろう。それにしても、凄いな。僕の力不足かな?」
「ふふ、どうします?」
「そうだな。しかしダンスは今まで考えて、最適解を出している。これ以上はダンスでは無理だな」
「そうですね。いろいろ考えましたが、王妃様からボツを貰ってしまいましたし」
「けれどエッタの案は良かったな。エッタを持ち上げてくるくる回るのは少しやってみたくなった」
「まあ、危ないですし」
前世のスポーツを急に思い出して言ってみたけれど、あれは氷の上を滑るのでくるくる回らない。
冷静に考えたら周りに人がいる状態でやるのは危険すぎる。
……わたくしもやりたいとは思ったけれど
「ふふ、あとで2人きりでやります? 周りに何もないところなら良いと思うのですが」
「ああ。外でなら問題ないだろう」
つい話に夢中になったしまったわたくしは、周りの視線が変化したことに気が付かなかった。
ナトゥーラ王国の人たちはうっとりした眼差しで。近隣国の令嬢はハンカチを噛み締めつつ、それでも羨望の色が入り始めた。
そんな楽しいファーストダンスはあっという間に終わった。
その後は陛下達の元に戻り、挨拶を受けるらしい。
本来であれば、卒業パーティーなのでそういったことはないらしいのだが、王太子が決まる年のパーティーはこうなることが多いらしい。
やはり近隣国も王太子とお近づきになりたいだろうし、我が国も王太子をしっかり認知させたいだろう。
だからこの立っている状態でも、決して気を抜いてはいけない。背筋を伸ばし、微笑みを絶やさない。指先の動き一つにも気品が宿るように神経を集中させる。
そして国賓の方々が順番に挨拶にやってくるのだ。
一番初めにやってきたのは、比較的友好関係にある国。今回のことには無関係であるので、少し肩の力を抜く。
陛下達と言葉を交わしたあと、こちらにも声をかけてきた。
「この度は立太子おめでとうございます」
「お言葉感謝いたします」
「あの殿下がついに立太子ですか……。成長は早いものですな。素敵なご令嬢も捕まえて」
「良いでしょう。あげませんよ」
「いえいえ。私にも愛する王妃と子がいるのでね。そうだ、落ち着いたら我が国にいらしてください。もちろん、その時は王太子妃も一緒に。歓迎します」
「ありがたいことばです。貴殿の国は新婚旅行先の一つに考えても良いですね。彼女の希望にもよりますが」
「楽しみにしていますよ。おっと、つい話し込んでしまいましたね。それではまた」
立ち去っていく背中をみつめた。
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