卒業式ですわ
とても充実した休日だった。
その充実した時間のおかげで、その後の授業やらなんやらでとても集中できた。
オンオフの切り替えって大事だな、としみじみ思った。
そんな余裕も、段々と失われている。
卒業パーティーが目の前に迫っている。流石に緊張してしまっている。
目の前というか当日だ。流石に寝つきが悪かった。
お兄様の晴れの舞台なのに、全く集中出来ない。
今は卒業式の真っ只中である。生徒会長でもあり、主席で卒業したお兄様が壇上で答辞を読んでいる。
今日でお兄様との時間が減ってしまうのだから、お兄様の言葉を聞き逃さないように気を引き締める。
「今日というこの善き日、卒業を迎えられたこと、卒業生を代表して喜び申し上げます。そしてこの卒業を持って、我々は国を背負うという覚悟の下、精進して参りたいと思っています――」
お兄様は緊張した様子もなく、台本も見ずに堂々と答辞を読んでいる。
それは次期侯爵家当主として、素晴らしいものだった。わたくしも気を引き締めなくては。
お兄様の答辞が終わり、代わって学園長が話し始める。
「さて、例年通りであれば卒業パーティーの予定でした。しかし皆様ご存知の通り、今年はいつもと違います。それに関して陛下からお言葉があります」
その言葉に、ザワッと空気が揺れる。学園長と交代して陛下が壇上に上がった。
「諸君。まずは卒業おめでとう。そして今回巻き込んでしまうことは、誠に遺憾である。しかし、私は確信もしている。将来を担う優秀な諸君であれば、この壁も共に乗り越えられると! どうか、共についてきて欲しい!」
簡潔に、それでいて力強い言葉。
皆大きな声を上げた。
「陛下万歳!」
凄い。一気に微かにあった不満げな空気が完全に払拭された。これが現ナトゥーラ王国国王の人望なのね。
熱い空気の中、解散となった。
これから卒業パーティーに参加するものは準備に追われることになる。
そんな風に他人事になっている余裕はないのだけれど。
それでも、短い間だけれど皆で集まることが出来た。
フレディ様もお兄様もいる。そしてこの輪に入ることになって久しくなりつつあるアンジェラ様もだ。
「アルフィー、卒業おめでとう」
フレディ様が代表して、お兄様を祝福する。
お兄様は嬉しそうにしたけれど、すぐに表情を引き締めた。
「ありがとうございます。けれどここからが本番ですからね。気を引き締めないと」
「今くらいは良いのではないか?」
「私の場合は、早めにスイッチをいれないとうまく動けないのですよ」
「それはパトリシア嬢が助けてくれるのではないかい?」
話を振られたパトリシア様も、力強く頷いた。
「ええ。アルフィー様を支えられるようにサポートいたしますわ」
「ありがとう。パトリシア嬢がいれば百人力だよ」
うん、2人ともかなり親密になっている。とても良い感じだ。
今度はフレディ様はダニエル様の肩を叩いた。
「ダニエルも力を抜くんだ。君よりメアリー嬢の方が緊張するんだから、ちゃんとリードしないと」
「わ、分かってます。分かってるんです」
しきりにメガネを押し上げるダニエル様。いろいろな意味で緊張しているんだろうう。
メアリー様を見ると、こちらも少し顔色が悪い。この間ようやくディグビー家の養女として認められて、メアリー・ディグビー公爵令嬢となった。
初め、すこし言いづらいなんて思ったのは胸の中にしまっている。
本人は平民から男爵令嬢、そして公爵令嬢なんてランクアップが過ぎる。怖い。なんて言っていたから、まだ緊張してしまうだろう。
その様子を見るようにダニエル様に視線で訴える。ちゃんと気がついたダニエル様は、ハッとしてメアリー様の手を取った。
わたくしからすると、スキンシップを取れるようになっただけで成長を感じてしまう。
「メアリー、申し訳ない。俺では頼りないかもしれないが、何があっても守ってみせる。今日は俺から離れないようにしてほしい」
「だ、ダニエルさま……。わ、私頑張ります!」
よく言った! 心の中で拍手をする。
と、トミーはアンジェラ様に話しかけていた。
「アンジェラ嬢は大丈夫ですか?」
「緊張はしていますが、大丈夫ですわ。トミー様も、大丈夫ですか?」
「僕たちは兄上たちに比べると注目度はどうしても下がってしまいますから。そこまで緊張していません」
「流石ですわ。けれど注目度が低いのは否めません。ここはいっそ、一番目立つようにしてみます?」
「良いですね。主役が一通り目立った後、お株を奪ってしまいましょうか」
……あの2人は問題なさそう。
むしろこちらが負けないようにしないと。
そう思っていると、急に手を握られた。
「エッタ、周りを気にするなんて余裕だね」
「緊張はもちろんしてますわ。けれどこの程度、乗り越えます。フレディ様の隣に立つのはわたくし以外にあり得ません」
「……うん、僕も認めない」
この半年、努力を重ねてきた。たかが半年、されど半年だ。絶対にほかの令嬢になんて負けない。
先ほどは緊張していたけれど、今は緊張よりも闘争心の方が強くなっている。空回りしないようにだけ気をつけようと思った。
「それじゃあ、パーティーではあまり話せないと思うけれど、お互い頑張ろう」
「はい」
そして皆と別れた。次に会うのはパーティー会場だ。
◇◇◇
わたくしは邸に帰ることなく、王城にて磨かれていた。
ちなみにお父様とお母様とは、先ほど少し会話している。フレディ様の婚約者の家の当主として、やることが多いらしい。
忙しそうにしながらも、闘志に燃えている2人に勇気を貰った。
そしてわたくしはもうほとんど準備は終わっている。
パーティーまで後1時間程度。本当にギリギリだった。
侯爵家でも磨かれるときはすごく労力が必要だったけれど、正直可愛いものだった。
なんだろう、芸術品ってこういうこだわりなのかなと、場違いな感想を抱いたくらいに一つ一つ丁寧だった。
鏡に映る自分に、思わず魅入ってしまう。
「わたくしって、こんなに綺麗なのね」
「お嬢様は元から綺麗ですよ。……それでも王城の侍女たちは凄いですね。流石に私は手伝えないくらいに見事です」
エマはわたくしの専属侍女なので、今日もそばに居てくれている。本人も希望しているので、これからも一緒にいる予定だ。
わたくしが妃教育をしている間、エマは妃の専属侍女に相応しい教育を受けるらしい。
やはり新しい環境、それも国の上に立つ場所なので緊張も大きい。親しいものがいてくれると、それだけで心強かった。
最終チェックも終わると、もうパーティーが始まる時間だった。
扉をノックする音が聞こえる。
「エッタ、迎えに来たよ。君の着飾った姿を一番に見るのは僕以外許さないからね」
「フレディ様ったら。どうでしょう? 皆様の努力の結晶ですのよ」
ドレスを摘んでくるりと回って見せる。ふんわりとさせた裾の部分が軽やかに揺れる。
「ああ。とても綺麗だ。儚げな雰囲気が、僕の色でより美しくなっているよ」
「フレディ様も、わたくしの色で幻想的な美しさですわ。最初は似合うか不安だったのですけれど、お気に召したようでよかったですわ」
お互いに褒め合う。なんというかポエミーなことを言っている自覚はあるけれど、この後を考えるとこれは序の口だ。
これから周りに敵わないと思わせるくらいに、見せつけるつもりなのだから。
侍女たちのうっとりした様子をみるに、良い感じみたいで少し安心する。
わたくしたち、というかフレディ様は主役なので最後に入場する。陛下と王妃様が挨拶をしてフレディ様を紹介したあと、入場するのだ。
大トリだ。緊張もあるけれど、興奮しているので情けない姿は見せなくて済みそうだ。暴走しないようにしよう。
そろそろ行く時間だ。
「さあ、行こうか」
「はい。わたくしたちを見せてあげましょう」
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