お母様はやはり凄いです
「そうなのですか? それではヴァネッサさん……失礼しました。ヴァネッサ様は学園の卒業生なのですね」
「ヴァネッサでいいですよ。私は元々伯爵家の者なのです。アメリア様にはそれは良くしていただきました。この店を持つことができたのもアメリア様のおかげなのです」
「ヴァネッサは昔からオシャレに敏感で、わたくしも良く相談させてもらっていたの。だからお店を持ちたいと言った時、全力で応援させてもらったわ」
「お陰様で割と大きな騒動にはなりましたが、無事お店を持つことができました」
大きな騒動とは。お母様は微笑むだけで何も言わない。あ、聞いちゃダメなやつか。
「ヴァネッサ、娘は将来自立したいんですって。方向性は違うけれど、自立している女性の1人としてアドバイスしてやってくれない?」
「まあ、この年齢で自立しようという気概がおありとは。さすがアメリア様の御息女ですね」
確かに、お店をもって働いているヴァネッサさんは将来の良いお手本になりそう。
(もしかしてそれも込みで紹介してくれたのかしら。お母様ってやっぱりすごいわ)
もちろん懇意している店で買うのも目的だけれど。お母様はわたくしの望むことを手助けしてくれる。
そのことに胸がじん、と熱くなった。
「私で参考になるかはわかりませんが、気になることがあったら聞いてください」
「ありがとうございます。ではまずはドレスについて助言をいただきたいですわ」
そういうと、一瞬目を見開いた後、今までの一番の笑顔でヴァネッサさんは頷いてくれた。
◇◇◇
ドレス選びが終わり、邸に帰る馬車の中。
わたくしは温かい気持ちで揺られていた。
「お母様、ありがとうございます」
「ふふ、いいドレスが注文出来て良かったわ」
「それも勿論ですけれど、ヴァネッさんを紹介してくれたことです」
「そうね、けれど今日はドレスのこと以外聞かなかったじゃない?」
「それはヴァネッサさんが長年の努力で積み上げてきたものですから、今日初めて会ったのに聞くなんて烏滸がましいことできません。もっと交流を深めてからにしたいです」
お母様は眩しいものを見るようにこちらを見ている。
「……本当に成長したわね、へティ。そこまで考えられるようになるなんて」
「お母様たちのおかげですわ。今回のように、貴族の常識から外れたことを望んだとしても否定するのではなく、道を整えるように手助けしてくれるのですから」
「……わたくしも昔は貴族の常識に囚われていたのよ。けれど、ヴァネッサがわたくしを変えてくれたの。あの子はわたくしの憧れなのよ」
そうなのか。てっきりお母様がヴァネッサさんを気にいっていたのかと思っていたけれど、お母様がヴァネッサ様の人柄に惹かれていたのか。
「素晴らしいですね。わたくしも互いに尊敬し合えるようなお友達が欲しいです」
「あら、それを作りに今度行くのでしょう?」
お母様が意地悪そうな表情で笑う。わたくしもニヤリと笑いながら、強気にいった。
「もちろんですわ。あの様子ではパトリシア様も押したら流されてくれそうですもの。押して、押して、押しまくりますわ」
「まあ、なんて強気なのかしら。一体誰に似たのかしらね」
そこでわたくしは顎をツンと上げる。
「もちろん、愛する家族ですわ。わたくしのお手本であり、目指すべき姿ですもの」
そう言った後、耐えきれなくなり、2人で噴き出すように笑う。
鳥がその笑い声に同調する様に囀っていた。




