恋バナは良いですわ
最近トミーとはあまり会話は出来ていない。トミーがこちらに話しかけない限り、わたくしも当たり障りない会話を心掛けていたから。
学園ではトミーとも良く行動しているけれど、基本的に他にも誰かがいて2人きりにはならない。そう決めたから。
だから最近のトミーについてわたくしはほとんど知らない。
そんな知らないトミーの姿を聞いて、心の底から安堵した。
「……ありがとうございます、アンジェラ様。トミーを救ってくださって」
「そんな、トミー様からはヘンリエッタ様のお話を何度も聞きましたわ。ヘンリエッタ様こそ、トミー様を救ったのではないですか?」
「そうですわね。幼い頃は、トミーがどうしたら幸せになれるか考えて、色々お世話をしていましたわ。けれどその行動がトミーを苦しめてもいましたの。もう、わたくしは離れることしか出来なかったのです。だから、トミーがアンジェラ様に思いを寄せるようになったと聞いて、とても嬉しいですわ」
「ヘンリエッタ様……」
アンジェラ様の目が潤む。
「私、まだまだ至らないところが多いですが、トミー様を支えるために精進します」
「ええ。けれど、トミーもビシバシ鍛えてあげてくれると嬉しいですわ。お互い支え合える関係が素敵だと思いますもの」
「ふふっ」
「恋バナって、やはり聞くこともとても良いですわ……」
パトリシア様が完全にメアリー様に染められている。
「今度はパトリシア様の番ですわよ?」
「え?」
「当然ですわ。今日はそのためなのですから。一体いつからお2人は交流がありましたの? わたくし、全然気がつきませんでしたわ」
「それは、その……」
顔を染めるパトリシア様。完全に恋する乙女だ。可愛い。
アンジェラ様も同じことを思ったらしく、熱い吐息を吐き出した。
待つわたくしたちに観念して、ボソボソと話し出した。
「……わたくしも最初はヘンリエッタ様のお兄様という印象しかありませんでしたわ。変わったのは、殿下から身を引くと決めた頃からです。……ちょうど殿下とヘンリエッタ様がすれ違ってからですわ」
「まあ」
「そ、そう言った意味では、感謝していないこともないですわ」
プイッと顔を背けながら言った。
トミーと同じように、パトリシア様自身の恋愛話はあえて聞かないようにしていたけれど、わたくしの知らないところでちゃんと前に進めていたことに、また安心した。
「お兄様は愛が重くなると思いますが、よろしくお願いしますわ」
「それはトミー様では?」
「お兄様も重いですのよ。だから家族のことになると目の色を変えるのですから」
「そ、そうですか」
パトリシア様はなんとも言い難い顔になっている。多分、わたくしやトミーの愛情表現を思い出しているせいですね。
ここでハッと気がつく。
「ああ! わたくしとしたことが、お2人の思い出を聞いておりませんでしたわ! パトリシア様はお兄様のどこにキュンとしましたの?」
「そ、それは……」
「それは?」
「……初めて女性として見られたことを自覚したというか、“素敵な淑女になった“と言われたことがきっかけでしょうか。その当時は気がついておりませんでしたが、そのことが頭をよぎるたび、なんだかドキドキしましたの」
「まああああ……っ。素敵ですわ!」
「それは素敵ですね。昔から交流がある方ににそう言われるのはドキドキしますわ」
アンジェラ様も頬を染めて興奮している。やはりどの世界でも、恋バナは興奮するものだ。
「けれどまだその頃はわたくしは殿下の婚約者候補でしたから、何もしませんでした」
「こういうとき建前ってもどかしいですわ」
「それにまだ時間が経っていないのに、他の殿方に目を移そうとするなど不誠実に感じてしまって」
「そんなことありません!」
「そうですわ、パトリシア様! 自分の中で折り合いをつけていたのでしたら、建前がどうであろうと気持ちは自由ですわ!」
アンジェラ様と2人で勢いよく否定する。パトリシア様は目を白黒させていたけれど、わたくしたちの言葉にふわりと笑った。
「ふふっ。ありがとうございます。当時はとても悩みましたが、今は大丈夫ですわ。それに、殿下とヘンリエッタ様のことが固まった後から、アルフィー様がアピールをしてくださったのです」
「お兄様ったら……やはり紳士ですわね。ちゃんとパトリシア様をリードしようとしていましたのね!」
「殿下も紳士なのでは?」
パトリシア様の言葉につい口が滑ってしまった。
「正直申しますとお兄様の方が、紳士のレベルは上ですわ。殿下は女性を受け止める時何も出来ませんが、お兄様は腰に手を回してしっかり支えてくれるのです」
「待ちなさい。殿下はまだしも、アルフィー様と何しているのですか」
しまったと思ったけれど、すでに後の祭りである。
ものすごく呆れた眼差しを送ってくるパトリシア様。
その反応に疑問を感じた。怒っているわけではない?
「……まあ、今までのことは良いでしょう。あなた方の兄弟愛は何度も見てきましたし、不思議ではありませんわ」
「は、はい」
ビシッといつ用意したのか、扇をこちらに突きつける。寝巻き姿だというのに、その姿は気品に溢れている。
「しかし! お互いにもう婚約者がいる身ですわ! アンジェラ様のことも考えて、必要以上に触れたりしてはいけませんわよ!」
「き、肝に銘じますわ」
確かに、昔から付き合いのあるパトリシア様は慣れているだろうけれど、アンジェラ様はそうではない。ついでにわたくしとトミーの間にあったことも知っている。それを踏まえると、今まで通りスキンシップを取ってしまえばアンジェラ様の心に暗い影を落としてしまうことだろう。
一応、お互いにその気持ちがなくなったということがわかったとは言え、油断してはいけない。
「……お2人ともお優しいですね。私のことも考えてくださるなんて」
アンジェラ様がポツリという。
「なにを仰るのですか。まだですが将来的には姉妹となるのです。ぎ、義妹のことを気にかけるのは当然ですわ」
「ええ。パトリシアお義姉様のいう通りですわ。家族になるのですもの、お互いを尊重していきたいですわ」
また恥ずかしそうにパトリシア様が言う。わたくしも同調すると、アンジェラ様は嬉しそうに笑った。
「……ありがとうございます。実は、すでに仲の良いお2人の中に入るのはとても不安だったのです。……これからよろしくお願いします。パトリシアお義姉様、ヘンリエッタお義姉様」
その姿はとても可愛らしかった。抱きしめたくなる衝動をなんとか抑えて、代わりに手を握る。
「「こちらこそよろしくお願いしますわ」」
パトリシア様と言葉が重なる。
ふとアンジェラ様が言った。
「そういえば、メアリー様もパトリシア様の義妹になられるのですよね? そうなると姉妹が増えるのでしょうか?」
「! ええっそうですわね! 大変! メアリー様も呼ぶべきでしたかしら!」
「落ち着きなさい。今回はアルフィー様とトミー様の婚約者としての紹介ですわ。一応メアリー様にも説明してますし、大丈夫ですわ」
「流石パトリシアお義姉様ですわ! こうなるとわたくしとアンジェラ様とメアリー様、誰が次女で三女でなども確認しないといけませんわね!」
「そこは必要ありますの?」
「もちろんですわ! “お義姉様”と呼びたいですし、呼ばれたいではないですか! ああっ学園で確認しましょう!」
興奮するわたくしに、2人とも笑っている。
「まあ、その気持ちはわかりますね」
「はあ……また学園で荒れますわね。……殿下がヤキモチを妬きそうですわ」
「殿下、先ほども面白がってはいましたが、やきもち妬いてましたものね」
「う……最後にお見送りしましたから、大丈夫だと信じたいですわ」
ワイワイ話しながら、夜が更けていった。
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