パジャマパーティ開催ですわ!
お母様に身を乗り出しながらお泊まりの許可を取ろうとするわたくしに、お母様は苦笑した。
「落ち着きなさい、へティ。そもそもパトリシア嬢とアンジェラ嬢が承諾していないでしょう?」
「そうでした。パトリシア様、アンジェラ様。どうでしょうか?」
「今のヘンリエッタ様の勢いを考えると遠慮したいですわ」
「そんな⁉︎」
即答で断られてしまった。縋るようにアンジェラ様に目を向ける。
「うっ。私は……」
「アンジェラ様、ここはしっかり断らないと貴女が苦労しますわよ」
「パトリシア様、余計なことを言わないでくださいませ。押し切れないではないですか」
「ほら、こんな調子ですもの」
くうう。だって今日を逃したら、2組の関係の進み方がわからないままになりそうだもの!
ここは押し切らないと。と思っていると。
「ふふっ。パトリシア嬢、そのくらいにしておきなさいな。へティがそう言うと思って、両家には許可を頂いてるわ」
「まあっ流石お母様ですわ‼︎ ありがとうございます!」
わたくしのために、ちゃんと考えてくれてたなんて!
パトリシア様は照れ隠しよね。目を瞑ろう。
「とりあえずヘンリエッタ様は落ち着きなさい。わたくしはまだしも、アンジェラ様が引いていますわよ」
「そんなぁ」
「い、いえ。驚いてるだけですわ。私の印象とだいぶ違ったもので」
アンジェラ様、わたくしにどんな印象を持っていたのかしら。
ああ、たくさん聞きたいことがあるわ。楽しみ!
◇◇◇
フレディ様は名残惜しそうにしながら帰っていった。流石に殿方、それも王子を泊めるのは許可が降りなかったらしい。
まあ、領地では泊まっていたけれど。フレディ様は最終調整で忙しいようだった。
馬車まで見送りをする。せっかくだからと2人きりにしてくれた。
「お忙しい中ありがとうございました」
「いいや、僕もエッタの反応が見たかったからね。本当は夜も一緒にいたかったけれど」
「まあ。そう遠くはない未来に出来ますわ。それまでの辛抱です」
そう手をとって言うと、フレディ様は空いている手で顔を覆った。
「……このまま押し倒したい」
「今のは聞かなかったことにしますわ」
「エッタが僕の理性を壊そうとしているのに」
「励ましたつもりだったのですけれど」
「ああ。とても元気が出た。もう少しだ」
「ラストスパートですわ。頑張りましょう」
「ああ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
フレディ様を見送った後もろもろ寝る準備をして、今わたくしの部屋にはパトリシア様とアンジェラ様が同じように寝巻き姿でいる。
そう! パジャマパーティーだ! 恋バナにはもってこいだわ!
エマに頼んで、ハーブティと、軽いお菓子を持ってきてもらった。
本当はパーティーも近いので、太りたくないけれど1日くらいなら大丈夫だわ!
そんな風に2人にも話し、パジャマパーティーが幕を開けた。
「もうっパトリシア様ったら、わたくしに何も言わずにいきなり報告だなんて、寂しいですわ」
「一応アルフィー様が言おうとしてましたわよ。メアリー様の時に」
「え? そうでしたか?」
「“仲間はずれにさせない”と仰っていたでしょう? あの時に一緒に報告しようと悩みましたが、あまりにもショック受けていたようなので先送りにしたのです」
「ああ……あの時ですか。確かにあの状態で報告したら危なかったですわ。パトリシア様の貞操が」
「あれ以上はそれこそ実力行使でしたわ……」
パトリシア様が顔色を悪くする。うん、わたくしも今の報告でよかったと思った。
「アンジェラ様はトミーとどのように関係を深めたのですか?」
「実は魔物襲撃事件から、気になっていました。けれどトミー様がヘンリエッタ様に執着されていたので、気になる程度にしていました」
「そういえば、教室でも当時はトミーのシスコンぶりが話題になっていたそうですものね」
「ええ。Bクラスで一番優秀なトミー様が執着する“お義姉様”のことも我がクラスでは注目されていました」
「そうなのですか?」
「ええ。その、パトリシア様のことも含めて、皆話題を聞き逃すまいと必死でした」
「そうですわね。貴族にとって情報は武器ですし」
アンジェラ様の言葉に、パトリシア様が頷く。
「わたくしたちも注目されていましたしね。特に夏休み明けは凄かったですわ。ちなみに、その時の噂はどんな感じでしたの?」
「恐らく、ヘンリエッタ様たちが聞いていたのと相違ないかと。殿下がついにヘンリエッタ様を捕らえたと」
「……そうですわよね。あの殿下の感じは周りにバレていましたよね」
「そうしないと、ヘンリエッタ様が逃げてしまうでしょうからね」
羞恥を感じたけれど、冷静に考え直す。パトリシア様に追い打ちかけられたけれど。
「それで? トミーからアンジェラ様に近づいていったのでしょうか?」
「いいえ。トミー様は恐らく独り身になるおつもりでした。ヘンリエッタ様のことが広まっても、お変わりなかったですし」
「まあ……」
「独り身か、ヘンリエッタ様が結婚してからのつもりでしたでしょうね」
だいぶ吹っ切れたと思っていたけれど、そうか、当時はそんな風に……。
「それが変わったと言うのは、アンジェラ様のお陰ですの?」
「おかげというほどではございません。ただ、たまに一瞬寂しそうにするトミー様から目が離せなくなったのです。同じクラスであれば、トミー様の気持ちは知っているものがほとんどです。中には応援している者もいたので、皆気にしていました」
「そうなのね……。トミーはクラスの皆に愛されているのね」
胸が苦しくなるけれど、そこには触れない。過去のこと悔やんでも、今に通じることではない。それにトミーはもう前に進んでいる。
「そうですね。最初はシスコンぶりに引いていましたが、やはり飛び級で入学した優秀さで注目を浴びました。そして段々歳下らしく、可愛らしい面も出てきて、皆に好かれるようになりました」
「ええ。トミーは本当に可愛らしいもの。今は背も抜かれてしまって、格好良くもなってきましたわね」
「ヘンリエッタ様?」
「失礼しました」
弟を褒められて嬉しく思っていると、パトリシア様に呼ばれる。自分で思ったより、暴走し始めていたらしい。ストンと座り直す。
こほんと咳払いをした。
「なるほど。ではアンジェラ様がトミーにアプローチしたのですね」
「はい。気がついたら、隣で支えたいと思うようになりました。もちろん最初はトミー様が拒否されることも想定内でしたので、ゆっくり距離を縮めることから始めました」
「アンジェラ様は策士ですのね! 気がついたらトミーの心に入り込む作戦ということですのね!」
「そういうことになりますね」
恥ずかしそうに肯定するアンジェラ様。
パトリシア様も気になるのか、少し身を乗り出す。
「ではどのようにトミー様を落としたのですか?」
「えっと、私も、本当にトミー様と結ばれると思っていませんでした。高望みだけれど、諦められないというか……。けれどテスト結果発表の日に、トミー様を褒めるヘンリエッタ様に嫉妬しました」
「え」
予想外の言葉だ。
「そこで、私は覚悟を決めました。元々徐々に距離を詰めていたので、嫌がられていないという確信はありました。……それで、その……トミー様に言いました。“トミー様の一番が私でなくても、隣にいたい。どうか、隣にいる許可をください”と……」
「まあ……そんな……」
それは一番辛いことでは? と思ったけれど、アンジェラ様は微笑んで言った。
「そうしたら、“いいえ、貴女を一番にします。確かに姉上への気持ちはまだあります。それでも、過去になりつつあります。もう、本当に家族としての感情になっている。だから、僕の隣にいてください”……そう言ってくれました」
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